そんな視点に立ってとりまとめられた報告書が「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方」だ。
まず「放送」の現状について「動画配信サービスの伸長などにより『テレビ離れ』が進み、情報空間はインターネットを含めて放送以外にも広がっている。広告費の低下や人口減少の加速化により、放送は構造的な変化が迫られており、既存の枠組にとらわれない変革が求められる」と、「放送」を取り巻く環境が様変わりしていると分析した。
そのうえで、「放送の価値は、デジタル時代においてこそ期待される」と強調、「インターネットによる配信を含めた多様な伝送手段の確保」などにより、「放送」の社会的役割を維持・発展させていくことの重要性を指摘した。
そして、「ネット」の展開について、健全な民主主義の発展に貢献するよう「放送コンテンツの価値を同時配信などによりインターネット空間に浸透させていくべき」と断じ、「NHKと民放の二元体制を、インターネットを含めた情報空間全体で維持していくことが重要」との認識を示した。
そして、そのために、NHKのネット事業について「具体的かつ包括的に検討を進めた上で、制度的措置についても併せて検討していくべきである」と結んだ。
これは、「放送の補完業務」と位置づけてきたNHKのネット事業を、「放送と同格の本来業務」に引き上げるための放送法改正まで念頭に置いたものと捉えられる。つまり、NHKを、「放送」も「ネット」も展開する「公共メディア」として認知しようという方向性を明確に打ち出したといえる。
「ネット受信料」発言で炎上した過去
自民党の情報通信戦略調査会(会長・佐藤勉元総務相)も4日の幹部会合で、NHKのネット事業について「本来業務とすべきかどうか」「本来業務とする場合には範囲をどのように設定するか」などを総務省が具体的に検討するよう求め、後押しすることになった。
強力な「援軍」である。
NHKは2017年夏に初めて、ネット事業について「将来的には本来業務と考えている」と公式に言及、「ネット受信料」の創設にも触れた。
その際は、民放界などの猛反発でいったん引っ込めたが、「ネット」の本格展開の野望は抱き続け、20年春に常時同時配信「NHKプラス」をスタート、今春からはテレビを持たない人向けに専用アプリなどを使ってサービスを提供する「社会実証」を始めるなど、「本来業務」の実現に向けて着々と布石を打ってきた。
「公共メディア」への進化を至上命題とするNHKの強固な意思が、ネット事業の拡大に慎重だった面々をようやく突き動かしたかのように見える。