ロシアは、容赦ない科学的手法を用いていた。こっちでひとつの性能を試し、あっちで別の方法を試し、ウクライナを舞台にスキルに磨きをかけ、自分たちにはどんなことができるのかをロシアの権力者に実践して見せ、点数を稼いでいたのだ。

ノットペーチャが破壊的な威力を発揮して、ウクライナにあるコンピュータの八〇パーセントのデータを消去したことには理由がある、とデレヴィアンコは言った。

「ヤツらは自分たちの失敗から学んでるんだ。新しい戦争の新しい兵器だ。ウクライナはヤツらの実験場にすぎん。ヤツらが今後、あの兵器をどう使うつもりなのか、我々にはわからんよ」

だがウクライナはこの二年というもの、あれほど大規模なサイバー攻撃は受けていない。あと二週間足らずに迫った二〇一九年のウクライナ大統領選で、ロシアが介入を企てているという証拠があるにせよ、サイバー攻撃の間隔が開くようになっていた。

「ヤツらが次の段階に移ったという意味だ」

デレヴィアンコが言った。

次に何が起こるか、人々は知っていた

私たちは黙って肉のアスピックをつつき、支払いを済ませて、凍てつく外へ出た。身を切るような暴風は、ようやく収まったようだった。それでも、普段は観光客で賑わう古キーウの丸石敷きの通りに人影はなかった。

私たちはキーウのモンマルトルと呼ばれる、石畳の続く細く曲がりくねったアンドリーイ坂をのぼり、画廊やアンティークショップ、アートスタジオの前を通り過ぎ、聖アンドリーイ教会のほうへ向かった。

ニコール・パーロース『サイバー戦争 終末のシナリオ』(早川書房)

白と淡いブルーの壁や緑の屋根に、金色の縁取りが美しいこの教会は、もともと一七〇〇年代にロシアの女帝エリザベータ一世の夏の宮殿として建てられたものである。

聖アンドリーイ教会の前でデレヴィアンコが立ち止まり、街灯の黄色い灯りを見上げた。「もしヤツらが」

彼が口を開いた。「ここの街灯を消したら、数時間は電力が使えなくなるかもしれない。だけどもしヤツらが、同じことを君たちに……」

彼は最後までは言わなかった。だが、その必要はなかった。その問いなら、もう何度も繰り返し、ウクライナ人からもアメリカの情報源からも聞かされてきたからだ。

次に何が起こるか、みなわかっていた。

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