「お金を出せば役員にしてあげる」

パワー・ハラスメントする人はパワー・ハラスメントをすることで心を癒す。パワー・ハラスメントの中に、自分の上司としての役割が出るし、自分の劣等感が癒される。実際に人をいじめて心を癒している人もいる。パワー・ハラスメントで部下をいじめる人はいじめることで心を癒す。

加藤諦三『パワハラ依存症』(PHP新書)

しかし、いじめたくてもいじめられない人は、心の傷を癒すことができないで、ネクロフィラスな傾向を自分の中に維持し続ける。生産的にも生きられず、憎しみも晴らせない人は、ネクロフィラスな傾向を維持し続ける。

たとえば、最近テレビや新聞などを見ていて驚く事件がある。リストラされた中高年の退職金を狙った詐欺である。いくら出せば役員にしてあげるという詐欺である。いくらなら課長、いくらなら部長という値段がついている。

こういう詐欺をする人は、ネクロフィラスな傾向が強い人であろう。リストラされて心は傷ついている。プライドは傷ついている。そうしたリストラされた状態では、会社の役員というのは、何かものすごく価値があるように思える。その弱点をついた詐欺である。

根底には強烈な劣等感がある

人は、追い詰められると人生の道を間違える。リストラされて弱気になると、役員は大きく見える。リストラされると、役員はすごい人に見える。そして「あの会社を辞めて○○会社の役員になった」と人に言いたい。その弱点をつかれて騙されたのである。

先に書いたように、子どもが問題を抱えた時に嬉しくなる親がいる。それは劣等感の強い親である。自分の子どもであっても、不幸が嬉しい。そこに、親としての自分の役割が出るし、自分の劣等感が癒される。

出番のない親にとって、子どもの不幸は生きがいになる。出番のないビジネスパーソンにとって、部下の不幸は生きがいになる。無意識で自分に絶望している役員に、「パワー・ハラスメントするな」と言っても無理である。

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