辞めていく部下からの衝撃的なひと言
入社後は、声をかけてくれた担当者が上司となり、その下で保険について勉強しながら営業経験を積んでいった。同社には、営業職員が自ら一緒に働くメンバーを募ってチームをつくり、その人数や業績に応じて新しい組織を作ることができる制度がある。この制度が、山本さんのその後のキャリアアップに大きく役立った。
入社翌年には、上司が立ち上げた支部の出張所長を務めることに。一緒に働きたいと思える人に声をかけるうちに仲間が増え、3年後には15人ほどの規模になった。
「組織を作っていくのは楽しかったですが、失敗もたくさんしました。皆をきちんと育てたい、成果を出させてあげたいと思いすぎて、メンバーがお客さまと会うときにいちいち付き添ったり……。でもあるとき、それではその人のためにならないと痛感したんです」
もともと世話好きな性格も手伝って、営業先に付き添うと、お客さまに喜んでもらえるように、メンバーを助けるためにと、ついつい自分が喋りすぎてしまっていた。その結果、契約には至っても本人には1人で営業する自信がつかないまま。それに気づいたのは、ある職員が「所長と一緒でないとお客さまのところに行く自信がない」と辞めていった時だった。
「上司の仕事とは何か」がわかった瞬間
自分の仕事はメンバーに成果を出させてあげることではなく、自信をつけさせることなのだと気づいた山本さん。「営業職にとっては契約をいただく瞬間が晴れ舞台で、お客さまにありがとうと言われることが自信につながるのに、私がその機会を奪ってしまっていた」と猛省した。
このとき、当時の上司から言われた言葉が今も心に残っている。チームの皆が大きな穴の中に入っているとしたら、穴の外から無理やり皆を引っ張り上げるのではなく、まずは皆の「出たい」という気持ちを醸成したうえで、自ら穴の中に入って下から押し上げるのが上司の仕事だと。そして最後に自分1人が残ったところで、皆に外から引っ張り上げてもらいなさい──。
「本当に目からうろこで、それからは皆を1人で送り出すようにしました。でもやっぱり気になって、こっそりついて行って車の中から見守っていたこともありましたね。その人が無事にご契約をいただいて笑顔で出てきたときは、本当にうれしかったです」