外務省と大使館をねぎらう橋本龍太郎幹事長
久保田は続いて15日午後5時から衆院幹事長室で橋本龍太郎と面会した。
「館員は何ともなかったか。大変だったな。特に、子供のある人は(大変だったろうな)」と声を掛けた橋本は、天安門事件による死者を「(兵士、学生・市民を含めて)300人近く」と発表した袁木国務院報道官の6日の記者会見に触れた。
「中国側スポークスマンが発表した数字はちょっと信じがたいが、一体どれくらい死んだのか。学生も、軍も、過剰反応したが、まああれは暴徒だよな」
その上で橋本は、日本が置かれる難しい立場を述べた。
「日本政府の反応はあれしかなかったのじゃないか。それとも、もっと厳しくすべきだったか。(自分がインタビューを受けた)昨日のニュース・トゥデイはどうだった。『日本軍だってあれほど(残酷)なことはしなかった』という中国人の言葉は強烈だった。日本が欧米諸国と同一歩調をとれないのは当然だ。しかし、強硬派政権との関係にどっぷりともつかれない。米中関係が一層緊迫の度を加えれば、中ソ接近もあるのではないか。しかし、ソ連も及び腰になるだろうね。ゴルバチョフ(共産党書記長)が訪中した際のインタビューでゴルバチョフは学生の側についたと見てとった」
橋本は最後に外務省と大使館をねぎらった。
「まあ、いずれにせよ、今回の事態は外交官冥利に尽きるよな。大変だけどな。自分も気を配るし、やれることはやる。こういう状況になってきて、大使館の存在がいよいよ重要になってきた。予算などでできる限りのことをするので、要望があれば、どんどん持ってきてほしい。北京のみならず瀋陽等の公館についても持ってきてくれ」
外交文書では「対中配慮外交」を正当化
外務省として中国情勢に関心を持つ橋本龍太郎という政界の実力者を味方に付けておきたかった。天安門事件を受けて内外から批判されかねない「対中配慮外交」を展開する外務省に対して橋本が支持していることを強調している。久保田の一時帰朝報告の目的も、官邸と自民党に説明して理解と支持を得ておく政治的目的が主であったのだろう。
先の文書「中国情勢」にも久保田の一時帰朝報告に対する「先方の反応」としてこう書かれた。「先方」とは官邸と自民党中枢を指す。
「在中国日本大使館の邦人保護及び情報収集等については『お叱り』など批判的言辞は一切なく、むしろ『ご苦労さん』という慰労の発言がほとんどであった」
北京や国内で批判が高まった邦人保護を含めて外務省の対中政策を正当化する文書になっている。