「“完全なる”服従」に応じなければ呼び出しを食らう

ときには、車のドアを開けたとたんに怒鳴って命令してくる客もいた。彼らはドライバーと“一緒に”会話を楽しむのではなく、“一方的に”話すのを望んでおり、相手が必要最小限の役割を担うことを求めていた。彼らの声量は車内で数デシベル上がるが、ドライバーの声量はもう少し下げるべきだという無言の圧が伝わってきた。

写真=iStock.com/SimonSkafar
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ウーバーのドライバーとして働くときの問題は、自分が対等な立場として扱われないことだけではなかった。それは、この種の仕事ではよくあることだった。

驚くべきは、人々がドライバーに“完全なる”服従を求めてくることだった。これまで経験してきた仕事のなかでも、これほどの威圧感を覚えたことはなかった。「乗客はあなた方ドライバーの顧客です」とウーバーは言うことを好んだが、「ウーバーの顧客」と表現したほうが正しいように感じられた。

こういったすべての事柄がドライバーの評価に影響を与えた。模範的な評価を保つことは、実際のところ“平均”の問題だった。長年にわたって顕著な経歴をもつクリケット国別対抗戦の選手でさえも、ときには得点ゼロでアウトになることもあるはずだ。しかし、キャリアの早い段階で得点ゼロが何度かあると、すぐさま危機的な状況に追い込まれることがある。

ウーバーは直近50回分の評価にとくに注目した。数人のやっかいな客によって平均点が下がると、ロンドン中心街にある事務所に「研修」のために即座に呼び出される可能性があった。平均スコアが4.5より低い状態が続くと、ウーバー・アプリの使用そのものが禁止されるケースもあった。

「好きな時間に働ける」ギグワークの嘘

「低い評価をたびたび受けた場合、アプリの使用が禁止となる可能性があります。4.4を下まわったパートナーに対しては、こちらがしっかりと支援し、必要な訓練を受けていただきます」と新人研修の講師は言った。「訓練のあとも低い評価が続いた場合には、半年間のアプリ利用禁止、あるいは永久に禁止となったケースもあります(※3)

ジェームズ・ブラッドワース『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した 潜入・最低賃金労働の現場』(光文社未来ライブラリー)

スマートフォンの画面をいったん右にスワイプすると、すぐさまオンライン状態になる。そのあとは、アルゴリズムから送られてくる指示がなんであれ、とにかく受け容れなければいけないのだという圧力にさらされつづけた。

「リクエストを受け容れずに、タイマーが期限切れになるケースが続くと、われわれは2分間あなたのアカウントを保留します」と講師は、集まったドライバーの卵たちに警告した。「それを繰り返すと、保留時間はどんどん長くなっていきます」

結局のところ、ドライバーに与えられたのは特殊な種類の自由だった。

※3:ウーバーのオンボーディング(新人研修)での発言(2017年4月8日)

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