母親を引き込むのはたやすかったのではないか

2人が長い時間はかかったが、マインド・コントロールが解けて脱会できたのは、親身になって支え、説得してくれる肉親がいたからであった。

山上容疑者の伯父が週刊文春(7月21日号)に語っているところによると、山上の母親が統一教会に入信したのは1994~95年頃のようだ。まだ、桜田たちの入信、合同結婚式などが話題になり、山崎と飯干が脱会したことも話題になっていたに違いない。

伯父も、子どもたちが困窮しているのを見かねて生活費を出していたが、何としてでも統一教会から脱会させようとはしなかったようだ。諦めが先行したのかもしれない。

夫が自殺し、山上の兄は重度の障害があった。統一教会が彼女をマインド・コントロールするのはたやすかったのではないか。夫の保険金(5000万円といわれる)も、実父が持っていた土地も無断で売り払って、その金も寄付してしまったというのである。伯父にいわせれば、総額は1億円になるのではないかという。

大学に入る金がなかった山上容疑者は、海上自衛隊に入る。

しかし、2005年2月に山上は自殺を図る。彼は保険金の受取人を母親から兄に変更していた。病気の兄に少しでも金を残そうとしたようだ。その兄もその後、自殺してしまった。

彼の中に、統一教会への恨みが澱のように溜まっていったのであろう。

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母親は「事件と統一教会は関係ないでしょう」

2020年に奈良県内の派遣会社に登録し、京都府内の工場で働き始める。はじめは黙々と仕事をこなしていたが、翌年から勤務態度に異変が起き、従業員や上司ともトラブルを起こすようになっていったという。

そして2022年7月8日午前11時29分、事件が起こる。

事件後、母親は伯父のところに身を寄せ、こう話しているという。

「私が統一教会に入ったことは徹也の人生には影響していない。事件と統一教会は関係ないでしょう。教義に反するようなことは、話したくない」

彼女は教団のマインド・コントロールにからめとられたままのようだ。

桜田や山崎の入信騒動から30年近くがたつ。統一教会は世界平和統一家庭連合と改称した。だが、身内の不幸で心が折れそうになった人たち、一生懸命に働きながらも自分の人生に疑問を抱いている若者たちに、甘言を用いて近付き、話巧みに彼らを“洗脳”して入信させ、物心ともに奪ってしまう非道なやり方が延々続いてきたのはなぜなのだろうか。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」日本人総健忘症と、メディアの怠慢だったと、私は考える。