増大する軍事費、予備費を取り崩す現状

ところで、ウクライナとの戦闘が長期化する中で、増大する軍事費がロシアの国庫を圧迫していると推察される。しかし現在、ロシア財務省のサイトは日本からアクセスを遮断しているため、財政収支の状況を直接確認することができない。そこで民間の経済研究所Economic Expert Groupや露メディア・コメルサントのサイトから確認したい。

Economic Expert Groupによると、今年1〜3月期の財政収支は1兆1445億ルーブルの黒字だったが、4月は1038億ルーブルの赤字になった。ウクライナとの戦闘に伴う軍事費の増加や景気の急速な悪化に伴う税収の減少などを受けたものと考えられる。しかし5月以降は、資源企業からの税収増などから黒字に転換したかもしれない。

一方で中銀によると、この間の政府の国内投資家向け国債発行残高は増えていない。つまり2021年11月1日時点の17.1兆ルーブルが直近のピークだが、最新5月1日時点でも17.0兆ルーブルにとどまっている。なお6月に債務不履行に陥ったのは外国人投資家を対象とする外貨建て国債であり、ルーブル建て債券は支払いが継続されている。

反面で、予備費である国民福祉基金(NWF)は7月1日時点でGDP比8.1%と、ウクライナ侵攻直後の3月1日時点(9.8%)から減少が続く。つまりロシア政府は、予備費を取り崩してはいるが、国債の発行にはあくまで慎重なスタンスである。中銀やNWFが国債を買い支えることもできるが、通貨暴落やインフレを警戒しているのだろう。

写真=iStock.com/Valery Bocman
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「V字回復」はロシアの実勢を反映していない

原油高とルーブル安が共存し、安定的な利益が確保できるなら、ロシアの財政は健全な状態がたもてるかもしれない。しかし政策的経費である軍事費が税収を上回るペースで増大すれば、一般的経費が圧迫されることになり、国民の不満が高まることになりかねない。国民の支持こそが命綱であるため、政府は軍事費をできるだけ抑制したいだろう。

それに財政が健全なら、国民の支持をつなぎ留めるための景気刺激策が打てるはずだ。しかしモノ不足が定着している環境の下では、景気刺激策は十分な効果を持たない。むしろモノ不足の中で需要が刺激されることによって、インフレがさらに促され、景気の停滞につながるという悪循環に陥ることになりかねない。

このように、税収があっても積極財政に転換できないもどかしさを、ロシア政府は抱えているわけだ。

そもそも資源の輸出で得た収益は、本来なら国の経済成長、経済発展に充当されるものであり、軍事費の拡大に費やされること自体、まさに浪費である。こうした環境にもかかわらず、ルーブルが上昇している。

つまるところ、ロシア経済特有の産油国としての構造から実現したルーブルの「V字回復」は、経済の実勢を正確には反映していない、矛盾した現象といえよう。

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