東大1年生の心を折る英語の必修科目
例えば、東京大学の場合、ALESA(理系学生はALESS)やFLOWと呼ばれる授業があります。これは大学入学直後の1年生の時に受講する必修科目で、それぞれ「英語で小レポートを書く」「英語でミニプレゼンを行う」という内容になっています。
これら授業の最大の特徴は、指導教員が英語のネイティブスピーカーであり、基本的に授業中の日本語での発言は禁止、英語オンリーでの指導、受講が義務付けられているということです。講義に使用される言語はもちろん、講義中に配られる資料も英語オンリーですし、学生が発言する際にも、その発言に別の学生が質問するときにも、すべてを英語で行わなくてはいけません。
読み書きはともかく、スピーキングなんて東大生であろうとも全くの未知数の分野ですから、いざ発言や質問をしようにもうまく言葉が出てこない、なんていうのもざら。期待に胸を膨らませて東大に入学してきた学生たちは、大体これらの授業にぶつかって心が折れます。
もちろん、こうした事態を見越してなのか、救済措置はあります。しかし、その救済措置の中にとんでもない罠が仕掛けられているのです。
先ほども述べた通り、受験で英語を話す能力が試されない以上、個人的に英会話を習うなどしていなければ、スピーキングについてはほとんど素人の状態で放り出されてしまいます。一方で、東大には帰国子女だったり長期留学帰りだったりするような学生も数多く在籍しています。
普通に考えて、英語のずぶの素人と帰国子女とをいきなり英語で議論をさせようというのも、なかなか無謀なことでしょう。まず間違いなく会話になりません。
ですから、ALESAやFLOWには個々人の英語運用能力によってクラスが分けられます。それぞれの運用能力を考慮して、なるべく同じような英語力の集団ができるように、入学時点で調整するのです。
「受験英語を勉強してきた」というプライドが邪魔をする
この調整には二つの要素が加味されます。一つは東大入試の英語の成績。そして、もう一つは自己申告による5段階の英語スピーキング能力テストの結果です。この自己申告制のテストが非常に曲者で、これのせいで多くの東大生は自己責任のままに苦しみの中に叩き込まれることになります。
この自己申告制のテストが今でも行われているかは定かではないのですが、少なくとも僕が入学した数年前には、入学手続きの際に一緒に行われていました。これは5パターンの英語の音声が流れてきて、そのうちのどれに一番自分の能力が近いのかを自分で判断して申告するという仕組みで実施されます。
レベル4とレベル5の音声は、ほとんどネイティブスピーカー、もしくはそれに準ずるような流暢さで話されます。相当自信がなければこれらを選択することはないでしょう。一方で、レベル1とレベル2はといえば、これらはまた曲者で、“I like cats.”というような非常に簡単な文章を一つ述べるにも何度も突っかかってしまうような有様であり、これらを選ぶにはプライドが邪魔してきます。
そこで、僕を含めた多くの学生はその中間であるレベル3に流れます。レベル3の音声は、なんとか片言で会話が可能かな、という程度であり、受験勉強を終えたばかりのおごり高ぶった自信も手伝って、これくらいは話せるだろう、と高をくくってしまうのです。