利用シーンを具体的に描けていた
実は20年2月、小林製薬が商品開発の過程で20~60代男女に行った調査では、「月1回以上寝付きが悪い」と答えた人(約47%)のうち、その理由に「ストレス」を挙げる割合が最も高かったのが、30代女性でした。
つまり同社が、当初から主力となるターゲットを見据え、その人たちのココロや理想、すなわち「ストレスを解消したい→寝る前にリラックスしたい」との利用シーンを具体的にイメージできたからこそ、「耳ほぐタイム」という絶妙のネーミングに至ったのでしょう。
日本ネーミング協会の会長で、コピーライターの岩永嘉弘氏も、著書『最強のネーミング』(日本実業出版社)などにおいて、ネーミングの作成やキーワード検索に入る前の段階で、まず「ターゲット」のペルソナ(顧客像)を、より具体的にイメージすべきだとしています。
ネーミングの天才の見えない努力
たとえば、部屋などの気になるニオイを消臭する「消臭力(リキ)」(エステー)や、コーヒーブランドの「BOSS」(サントリーHD)。前者は、家族の頑固なニオイに悩む人たち(おもに主婦)を「プロレスラーや力士のように力強く」助けるイメージを、後者は「このコーヒーを飲む人=働く人たちの理想(の上司)」とのイメージをそれぞれ訴求できたからこそ、ヒットした商品の代表と言えるでしょう。
耳ほぐタイムも、商品の新規性だけでなくユニークなネーミングが口コミを呼び、「発売当初から、自然発生的にSNSで話題になりました」と北口さん。
小林製薬は「ネーミングの天才」とも言われます。ですがその裏には“天才より秀才”、すなわち最後まで決して妥協しない粘り強さ、そして調査結果から見えるターゲット像をしっかり反映させようとする“秀才張りの”努力が隠れているのです。