一方、日本ではサウナを題材にしたドラマや漫画が人気を集めるなど、この数年、サウナブームになっている。ビルの屋上を貸し切り状態にしたサウナや、野外にテント型のサウナを設置して楽しむ「テントサウナ」など、健康維持としてだけでなく、娯楽として注目されるようになっていた。

サウナ愛好者に協力を求める

松原は特段サウナが好きなわけではなかったし、流行に乗ろうと思ったわけではなかった。けれど、「サウナ×バス」は斬新なアイデアだと思った。なにより、「すごい、これ面白い」と感じた。

ただ、自分が面白いと思っても、実際にサウナ好きの人が乗りたいと思うのかがわからなかった。そこで松原は、サウナ界隈で情報発信をしているメディアやブロガー数人に、TwitterからこのようなDMを送った。

「初めまして。バス会社のものです。実は今、サウナバスを作ろうと考えているのですが、こういったバスがあったらどう思われますか?」

返信がないこともあったがほとんどの人が好反応で、なかでも「めっちゃ面白いですね!」と食い気味に返してくれた人がいた。サウナ検索サイト「サウナイキタイ」のメンバー・かぼちゃさんだ。

かぼちゃさんからは、「実現すればこれまでサウナがなかった場所にもサウナを運ぶことができて、新しいサウナ体験が作れるかもしれない」と意見をもらう。彼とメッセージをやり取りするうちに、松原は町を行き来する路線バスがサウナバスになるイメージが頭に浮かんだ。

松原が「よかったら、サウナバスを作る時は協力してくれませんか?」と聞くと、かぼちゃさんは快く引き受けてくれた。

頼りになるサポーターを得たことで、松原は「絶対にサウナバスを作ろう」と心に決めた。その後、かぼちゃさんはサウナバスの製作で大きな存在感を放つことになる。

「サウナバスで売り上げが立つのか」上司は反対

2020年の秋、松原はさっそくサウナバスの企画書を作った。けれど、この企画は上司から反対を受ける。

「サウナバスで売り上げが立つのか」
「バスの中身をとっぱらってテーブルを置けば会議室になるし、もっと簡単なもんでええんとちゃう」

筆者撮影
兵庫県姫路市の神姫商工。ここでは大型バスなどの整備、点検を行っている。

上司のシビアな意見には、新型コロナウイルスの影響もあるだろう。路線バスをはじめ、空港行きの高速バスの利用客が減り、事業の売上高は前年比で34.6%ほど落ちていた(2020年9月時点)。また、バスツアーなどの旅行貸し切り事業においても、訪日客の消失で82.7%と大幅に減収していた。そのような状況の中、新規事業に充てる資金に余裕がなかったのだろう。