「救急車受け入れ数日本一」にのしかかる負担

そう、救急医療は“救急で”診てもらえなければ意味がないのだ。山上もうなずく。

「医療者側のキャパシティで救急医療が制限されることがいいとは思えません。社会のインフラとして最初に病院で評価を受け、医療を受けるというのは、一番守らなければいけないことだと考えています。入院のベッドなんてあとで探せばいい」

とはいっても救急搬送数の増加に伴い、同院ERから他の医療機関への転院搬送数はすさまじく、前年の倍以上。2021年1月~3月までにERが救急車を受け入れ、患者に初期治療を行い、転院搬送をしたケースは489件。対して2022年は同期間でなんと1055件だ。転院先に選ばれる病院にも通常以上の負担がかかり、先方の医師もつい厳しい言葉を吐いてしまったのかもしれない。

同院の救急車受け入れ数は日本一で、その数は2020年の1年で1万4858件、2021年は1万6321件に上る。しかし2022年はこれをはるかに上回るペースの救急搬送数だ。2022年2月には、1日としては過去最高の「96台」の救急車を受け入れた日があった。たとえばこれが毎日続いた場合、年間受け入れ数が3万5000件になる。

他所で断られた患者まで押し寄せてくる

湘南鎌倉総合病院だけではない。

埼玉の羽生総合病院院長の松本裕史もまた、途切れない救急車からの受け入れ要請に頭を抱えていた。

撮影=笹井恵里子
羽生総合病院(埼玉県)

「いったいどうなってるんだ!」

前年比でなんと1カ月に80件、救急搬送が増加している。

2022年1月下旬、松本は「(緊急性の低い)予定手術を延期してくれ」と職員に指示を出した。しかし、手術数は減らない。毎冬のことである脳出血や心筋梗塞などの脳血管・心疾患の発生のほか、“コロナ関連”で受け入れを断られた患者が同院に押し寄せた。

「熱が出たり、ちょっと苦しい症状があると、本当はコロナでなくてもやっぱり他所は診ないんですよ。コロナの疑いや、コロナと診断された妊婦さんも当院に運び込まれましたね。当院は4年前に新築移転をしたため、手術室の換気が良いんです。ですからお産を含め、コロナの患者さんの手術症例は埼玉県内でかなり多いほうだと思います。

麻酔科の部長が感染対策室長であったことも功を奏していますね。ただ、第6波では職員が感染者や濃厚接触者になったこともあって、診療機能が落ちました」(松本裕史)

診療にあたるパワーが少なくなる上、脳血管・心疾患や出産などのように、さまざまな手術が発生したため、コロナだけに体制をさくのが難しくなった。さらに疑いの場合も含めて、コロナが関わると検査や診療に手間ひまがかかってしまうのだった。