副業で最高月50万円稼げるかもしれない……
ここまでのやりとりにかかった期間は1カ月。騙す側は拙速ではなく、じっくりと攻めてきます。本人がやる気になるまで、親身な対応をして待ち続けるのです。
後日、これまでメールでやりとりしていた「山下」とは違う「安部」という男性から電話がありました。
「すでに、山下から説明されていると思いますが、あなた様が代表になって会社をつくってもらいます。そこに節税したい企業のお金を流して、取引があるようにします。その際、赤字経営の形にしますので税金などは、一切、かかりませんので、ご安心下さい」
この時、架空の取引を装うなど「グレーな仕事かもしれない」との思いが頭をよぎったといいます。
しかし安部は、その気持ちを見透かすように「実は、どの企業も節税対策としてしていることなんですよ。税務署に何か指摘されるようなこともありませんので、ご安心ください。当社では、専任の税理士や行政書士、司法書士と共に、長年こうした業務をさせていただいております」と話します。
それを聞いた男性は「税理士、司法書士などが絡み、どこの企業もしているのなら、大丈夫なのかもしれない」と思っていると、安部からは「具体的に、お仕事を進めてもよろしいですか?」との問いが投げかけられます。
男性はそれに「はい」と答えてしまいます。
当時の気持ちを振り返り「企業の節税対策はよく聞く話でした。会社をつくり、節税の手伝いをするくらいなら問題はない。もし、自分自身のお金を投入してほしい、といった流れになったら、即刻やめようという気持ちで、やってしまった」と後悔を口にします。
その後、会社設立に向けての指示がきます。
「印鑑証明書を取り、携帯カメラで撮影して送って下さい」
男性が送ると「確認がとれましたので、これより書類作成へ入ります」との連絡があります。
さらに「資本金は**万円です。ご自身の口座に、建前上、その金額を預け入れして下さい。そして、通帳の表紙、見開きの1ページ目と最後の残高ページのコピーをとって下さい。その後、お金は引き出してしまって構いません。これは法務局へ提出する書類となります」
数日後、男性の元には、必要箇所がすでに記載された法人登記の申し込みの書類や、法人の印鑑、電子化された定款(CD-ROM)が郵送で届きます。
これを見た男性は「会社は、植物の名前になっていて、雑貨の販売をする事業内容になっていました。お金を騙し取られるどころか、向こうがこれだけの手間と金を使って、書類などをそろえているのだから、しっかりとした仕事で、事前に伝えられていた報酬額を払ってくれるのだろうと、不安が消えた思いだった」と話します。
1カ月目は数万円ですが、翌月以降からは約15万円、その後も月を重ねるごとに増えていき、最終的には50万円以上となる。そんな報酬も魅力的なものに映ったのでしょうが、よもや詐欺行為に巻き込まれるとは、考えてもいなかったのです。
そして法務局に向かい、一連の資料を提出します。登記には数万円が必要でしたが、報酬のなかに後で含まれるということで立て替えます。
安部からは「1〜2週間後に、登記が完了しますので終わりましたら、再び法務局で法人印鑑証明書などを取得した後に、税務署にも行き、それらの書類の提出をして、書類の控えをもらって下さい」
男性は税務署に赴き、法人設立届出書などを提出して、控えをもらいます。