経営に打撃を与えない行政処分という「なれ合い」

要するに、業界が構造的な過当競争の状況にあるなど、厳しい経営状況にある事業者に対しては、行政処分が経営に打撃を与えないよう「なれ合い」のような対応が行われていたのである。

結局、総務省の勧告が行われても、貸切バス業界の状況は改善せず、2012年4月、関越自動車道で乗客7人が死亡、38人が重軽傷を負う事故が起きた。事故の原因は、運転手の居眠り運転だった。

事故を受け、国土交通省は、貸切バスの夜間運行で運転手1人が1日に運転できる距離を670キロから原則400キロに引き下げ、14年には安全コストを反映させた新運賃・料金制度を導入した。しかし、2016年、軽井沢バス事故が発生したのである。

この事故に関しても、基準を下回る運賃での受注が高齢の技術未熟な運転手を乗務させることにつながったこと、会社が運転手に走行ルートを指示するための「運行指示書」には出発地と到着地だけが書かれ、どのようなルートを通るのかについては記載がなかったことなど、国交省の指導監督に関連する問題が指摘されている。

「知床で救命胴衣」で救命できるのか

観光船・遊覧船の業界でも重大事故が発生している。2011年8月には天竜川川下り船が転覆し、5人が死亡、5人が負傷する事故が起きている。現場は流れの激しい場所であったのに、事業者は乗客に救命胴衣を着用させていなかった。国交省は、全国の川下り船事業者に対し、救命胴衣の着用徹底などを指導した。

こうした国交省の対応は、重大事故の発生を受けて事故原因とされた問題への「後追い」的な対応にとどまっている。これでは、海難事故のリスクに対して十分な対応は期待できない。

実際、今回の観光船事故の現場は、救命胴衣を着用していても短時間で死亡するほど水温の低い海域だった。それなのに国交省が指導していたのは、救命いかだの設置ではなく、救命胴衣の着用徹底だったのだ。

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これらからすると、国交省の運輸行政は、事業者の経営に対する配慮に偏り過ぎ、乗客の生命・身体の安全がなおざりにされていると言わざるを得ない。

今回の観光船事故についても、国交省の側で、この2年間、コロナ感染で打撃を受けている観光業界への配慮が働いたことで、安全管理上重大な問題がある事業者に対して厳正な対応が行われなかった可能性がある。

結局のところ、このような国交省の運輸行政には、事故のリスクを事前に把握し、乗客の安全確保を徹底することを期待することは困難と言わざるを得ない。