進んでいるのは「テレビ離れ」ではなく「録画離れ」

TVerの現在地点を語る上で最後に挙げておきたいのが、人々のタイムシフト(録画)離れ。

BD・HDDレコーダーなどの録画機器が売れなくなり、一時はもてはやされた全録機器の普及も進まず、「リアルタイム視聴率は下がっているのに、タイムシフト視聴率はそれほど上がっていない」という状態が続いている。

写真=iStock.com/Ivan-balvan
※写真はイメージです

つまり、ネットの普及で「録画する」という行為自体が減り、視聴人数を増やすためには配信で稼ぐしかないということ。だからこそTVerの重要度は高くなり、各局の本気度が増す要因になっている。

期待しているからこそ不満は大きい

グーグルなど検索エンジンに「TVer」と入力すると、「無料」「パソコンで見る方法」「リアルタイム視聴」「ログイン」「ダウンロード」「使いにくい」「見れない」「テレビで見る」「無料 ドラマ」「番組表」という10個の予測変換ワードが表示された。ここにTVerに対する人々の期待と不満の大きさが表れている。

とかくテレビは「つまらなくなった」「レベルが低い」などと一方的に批判を受けがちだが、ネット上には常に「YouTubeはつまらない」「動画配信サービスの海外ドラマは合わない」などの声も飛び交っている。そんな人々ほどTVerに期待し、だからこそ不満を抱いているのだろう。

TVerには、批判的な声が目立つユーザーインターフェースだけでなく、「配信期間が1週間では短い」「ローカルセールス枠のバラエティーなど見られない番組が多い」「映像や音声がないシーンがある」「ローカル局の扱いが中途半端」などの課題は少なくないが、これらの改善にはまだまだ時間がかかりそうだ。

意外なほど謙虚なテレビマン

ただ、広告費の設定や出演者の報酬など、本気で取り組めば、早急に折り合いをつけられそうなこともある。現在は出稿に乗り気でないスポンサーや、ネット配信を渋る芸能事務所がいるのは事実であり、まずは両者への理解を進めることを優先させるべきではないか。

「オワコン」「時代錯誤」などと揶揄やゆするような書き込みは多いが、テレビマンやTVerスタッフの多くはビジネスパーソンとして優秀であり、意外なほど謙虚。

私のような書き手の言葉にも耳を傾けるし、「良いものに変えていくために、ダメなところはどんどん書いてほしい」という真摯しんしな人のほうが多い。彼らの顔を思い浮かべたとき、「今回の批判をプラスに変えていけるのではないか」と期待してしまう自分がいる。

関連記事
「受信料に守られたNHKしか助からない」民放キー局が一斉に飛び込んだ"ネット同時配信"という沼
「若者は10分間のYouTubeすら耐えられない」加速する"可処分時間レース"の行き着く先
早朝5時から「おはようございます!」…朝から晩まで「いい人」だらけのNHKを見ていたら疲れた
YouTuber志望者が直面する「それで食べていけるのか?」に対するシンプルな答え
名車「クラウン」があっという間に売れなくなった本当の理由【2021上半期BEST5】