忘れてはいけないファッションの重要な役割

「本来、“流行=トレンド”は、時代の大きな流れをデザイナーがとらえ、服というかたちで表現したものにおける共通項。ゼロベースで新しいものを世に問いかけ、反応を得続けるからファッション業界は、トレンドに敏感です」

村上さんにそう言われて思い当たるふしがあった。冒頭で触れた、トレンド会社が発信する「トレンド情報」には、政治経済も含めた世の中の潮流を読み、未来に向けてどう進むかという視点も含まれている。

「ファッションは、人々が抱いている潜在的な欲望を可視化させる役割を担っている。洋服は、目的ではなく、その手段」と村上さん。

撮影=西田香織
大学卒業後、地元の静岡新聞社で社会部記者として働いていた村上さん。25歳で渡米し、ニューヨーク州立ファッション工科大学でファッション・コミュニケーションを専攻した

それが「売り切るため」、「今のサイクルを維持するため」と目的と手段を履き違えたり、いつの間にか目標を下方修正してしまったりで、表層的なトレンドを盛り込むだけになっていた企業は少なくない。その意味では、「人々が抱いている潜在的な欲望を可視化させる」という本質に立ちもどって、ファッションのあり方を見直す好機と言える。

これはファッションに限った話ではなく、クリエーションに関わる産業に共通する要件だ。「トレンド情報」は、クルマや家電などのデザイン部門も手に入れている情報であり、デザイナーの創造力を後押しする役割を担っている。

「トレンドは決して悪者ではない」

人は、既にあるものだけでなく、漠然と欲しいと思っていたものがかたちになると、「そうそう、これが欲しかった」と手に入れて使うのではないか。暮らしを取り巻くモノやサービスには、そこを追求してヒットした商品が少なくないし、クリエーションはそこに大きく寄与している。

だからこそ、送り手である企業が創造的な挑戦を続けていかないと、存続・成長していくのは難しい。そしてそもそもファッションは、新しいクリエーションに基点に置き、進化してきたビジネスのはず。

「ゼロベースで新しいものを世に問いかけるシステムに意味があると考えるなら、結果生まれるトレンドは決して悪者ではない。サイクルの長短についても、問いかけの頻度が増せば、生活者のニーズにフィットする可能性が高くなる。そういう見方もできるのでは」という村上さんの話に気づかされるところは大きい。