「ロシアは嫌いだがバイデンやリベラルはもっと嫌い」

アメリカとロシアの長い敵対関係を思えば、今の状況は異常である。ソビエト連邦時代からの長い冷戦、核開発競争、キューバ危機をめぐる一触即発で核戦争かという事態も起きたし、アメリカ人の極端な“共産主義アレルギー”は言わずもがなだ。

ところが、それを一変させたのがトランプ元大統領だった。トランプ氏が大統領当選のためにロシアと共謀したといういわゆるロシア疑惑は弾劾裁判にまで至ったが、在任中はずっとプーチン氏を称賛し、蜜月ムードをアピールし続けた。

今回ウクライナ侵攻に際してもトランプ氏はプーチン大統領を「賢明」と賞賛する一方、バイデン大統領は「弱い」と批判し、侵攻の理由は「われわれの指導者が馬鹿だから」という発言をしたことは世界で大きく報道された通りだ。つまりトランプ支持者にとって、プーチン擁護論を受け入れやすい土壌ができていたと言える。

一方、今回のウクライナ侵攻でアメリカ人のロシアへの好感度は急降下し、逆にバイデン氏の支持率は上昇した。こうなると困ったのが共和党の政治家たちだ。いまだ強大な力を持つトランプ大統領の機嫌を損ねたくはない。しかし開戦当初はプーチン擁護に回っていたが、ここまで泥沼化しウクライナ支持の世論が圧倒的になっている今、アメリカが国家として「戦争犯罪を犯した」と認めたロシア大統領を擁護することは難しい。

だからプーチン氏を攻撃しつつも、プーチンを抑えられないバイデン氏も同時に攻撃するという、まったく逆の立場を同時にとっている。

そういう意味では、共和党の政治家もトランプ支持者も立場は同じだ。保守派にとっては、ウクライナの戦局よりも、移民などマイノリティやLGBTQの権利拡大の阻止、人工妊娠中絶反対など、国内案件のほうがもっとずっと重要だからだ。

つまり彼らはプーチンも嫌いだが、民主党やリベラルのほうがもっと嫌いなのだ。まさに敵の敵は味方、なのである。

極右とQアノンの陰謀論が合体

もう一つ注目しなければならないのは、Qアノンの陰謀論との急接近だ。

「ウクライナには生物学研究所があり、そこで生物兵器や新たなコロナウイルスが開発されている。その背後にはアメリカ、つまりバイデン氏がいる」という陰謀論は、もともとQアノンが発端とされているが、ロシアのソーシャルメディア、アメリカ極右のインターネット網などで広がり、「それを阻止するためにロシアが特別な軍事作戦をとっている」というウクライナ攻撃を正当化する理由になっている。

前出のインフォウォーズや、フォックスニュースのタッカー・カールソン氏の番組でも頻繁に取り上げられており、何がなんでもロシアを擁護したい極右の間で支持されている。