日本の安全を支えるのはどちらの地政学的世界観か
前者が国際法秩序と合致しているのは、第2次世界大戦後の国際秩序が米英主導で形成されたからだ、という洞察は、間違っていないだろう。だが、だからといって他の諸国が確立された国際法秩序を無視していいわけではない。プーチン/ドゥーギンの地政学に従っていない、という理由で、ウクライナを非難していいわけではない。
明治期の日本は、帝国主義の時代を生き抜くために、イギリスとの同盟を選び、ロシアとの戦争も辞さなかった。いわば島国の海洋国家として、マッキンダー理論に従って行動していた。しかし1930年代に方針を転換し、ハウスホーファー路線に走った。その結果、海洋国家連合との戦争に敗れて悲惨な体験をした。そのため戦後は日米同盟を外交の基軸に据え、再びマッキンダー路線に立ち返って外交安全保障政策を進めている。
今回の日本の同盟国・友好国と強調したロシアへの制裁とウクライナ支援は、マッキンダー地政学に依拠した外交安全保障政策の延長線上に位置づけることができるものだ。プーチン擁護者やウクライナ降伏推奨者は、どの地政学的世界観に基づいて日本の外交安全保障政策を進めていくべきか、という根本的なところから、考え直すべきだ。
「民主主義vs権威主義」という政治体制論的観点
アメリカのバイデン大統領は、就任以来、「民主主義諸国vs権威主義諸国」の世界観を一貫して披露してきている。今回のロシアのウクライナ侵略で明らかになったのは、実際にそのような図式で整理できる傾向が存在していることだ。
国連総会におけるロシア非難決議に反対したのは、ロシア以外には、ベラルーシ、シリア、エリトリア、北朝鮮の4カ国だった。これらの諸国が、まずもって世界有数の悪名高い独裁政権国家であることに異論はないだろう。ロシアの近隣諸国のみならず、アジアやアフリカの諸国の中に棄権に回った国々がある。いずれも中国のような権威主義的性格を強く持つ諸国だ。国連総会決議は、バイデン大統領が語る「民主主義諸国vs権威主義諸国」の分断が確かに存在していることを可視化したとも言える。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナは世界の諸国の自由と独立のために戦っている、と強調しているが、諸国のウクライナに対する視線も、確かにその世界観をそのまま反映したものだ。自由民主主義の価値観への関与の度合いが高ければ高いほど、ロシアを非難してウクライナを支援する。度合いが低ければ、必ずしもそのようには行動しない。