「目標なんて、もっちゃいけません」
タモリの座右の銘が「適当」であることは有名だ。
他にも「現状維持」「俺は努力ということをしない」などをあげることもある。共通点は「頑張って向上する」ということを拒否した言葉であるということだ。
「向上心なんてなかったですからねぇ。今もないし」とタモリは言う[10]。「なんかいつも、みんな何年後かに私はこうなりたいとかいうでしょ。目標を持って努力して頑張ることが、いいことのようにいうけど、いつも違和感があったんだよね」[5]「目標なんて、もっちゃいけません」とタモリは言う。
その理由はこうだ。「目標をもつと、達成できないとイヤだし、達成するためにやりたいことを我慢するなんてバカみたいでしょう。(略)人間、行き当たりバッタリがいちばんですよ」[11]
夢なんて無くたって生きていける
タモリが支持されたのは、そういったスタンスが時代のニーズにあったからではないかと自身も分析している。
そしてタモリはまた、「夢」を無条件で賛美する風潮にも異議を唱える。
「努力すれば夢は叶う」とマスコミは喧伝する。しかし例えば自分は中学の時に短距離の選手になりたかったが、どんなに頑張っても世界記録は出せないだろう、と。「やっぱり、中学の時に勉強できない奴がいっぱいいるんですけれども、勉強できない奴にどんなに勉強さして、尻を叩いても、先生方は『みんな勉強する能力は同じだよ』と。違うんですよ。だから勉強できなくてもいいわけです」[12]
にもかかわらずこのような状況に陥っているのは、「資本主義という全体主義」が元凶であり、しかしそれはもはや行き詰まりを見せているのだとタモリは語る。
タモリの根幹には「なるようにしかならない」という思想があるのだろう。過去の自分にも、未来の夢にも執着しないで、現状を肯定する。大学でトランペットを志したタモリは、先輩の言葉によってその夢が断たれた。
しかしその先輩の勧めで始めた司会業こそが天職だったように、タモリは流れに身を任せて生きてきたのだ。「夢なんて無くたって生きていけるんだよ」[13]
[1]「FNS27時間テレビ」フジテレビ(12・7・22)
[2]「ざっくりハイタッチ」テレビ東京(13・11・9)
[3]『本人』vol.11/太田出版(09)
[4]『対談「笑い」の解体』山藤章二/講談社(87)
[5]「エチカの鏡 ココロにキクTV」フジテレビ(09・2・1)
[6]「徹子の部屋」テレビ朝日(05・12・23)
[7]「笑っていいとも!」フジテレビ(11・12・9)
[8]『パピルス』幻冬舎(08・10)
[9]『STUDIO VOICE』INFASパブリケーションズ(07・3)
[10]「タモリ先生の午後2007。」「ほぼ日刊イトイ新聞」(06~07)
[11]『MINE』講談社(98・8・10)
[12]「はじめての中沢新一」「ほぼ日刊イトイ新聞」(05~06)
[13]「笑っていいとも!」フジテレビ(04・12・20)