コロナ禍、半導体不足…買収したKKRの大誤算

「マレリは欧州を基盤とし、電装系や車両通信、ECU(電子制御ユニット)などに強みを持つ。一方、カルソニックカンセイはラジエーターを源流とすることからBEVバッテリーの熱マネージメントシステムやメーターモジュールなどに強みを持ち、両社の合併で高いシナジー効果が期待された」(自動車アナリスト)とされる。買収を主導したKKRの狙いも、規模拡大とシナジー効果の発揮で企業の競争力を高めた上で、株式を再上場させることで上場益を手にすることにあったと思われる。

しかし、そこに世界的なコロナ感染拡大とサプライチェーンの混乱、半導体不足などのアゲインストの環境が重なり、ゴールデンシナリオが崩れた。その一方で、買収により有利子負債は1兆1000億円まで急増し、その重荷に押しつぶされかねないというのが現状と言っていい。

また、マレリの最大の顧客である日産が18年11月のカルロス・ゴーン元会長逮捕以降、業績が急速に悪化したことも大きな誤算となった。日産は脱ゴーン体制から値引きの抑制など販売の質的向上に向けて生産台数を絞ったこともマレリの業績悪化に拍車をかけた。

あの手この手で金策に走るが…

果たしてマレリのADRは成立するのか。一部では3月上旬にも申請し、事業再生計画の策定作業に入るとみられているが、予断を許さない。再建スキームを主導するのは親会社であるKKRであり、債権者間の合意交渉を担うのはメインバンクであるみずほ銀行となる。関係者によると「KKRには世界的なコンサルティングファームであるPwC(プライスウォーターハウスクーパース)がアドバイザーについており、みずほ銀行と再生スキームの絵を描くことになろう」とされる。

当面の資金繰りを支えるため、メインバンクを中心に主力銀行が1000億円規模の金融支援を実施する方向で、みずほ銀行が200億円のつなぎ融資をするほか、みずほ銀行と日本政策投資銀行はマレリが両行に預ける400億円の預金の取り崩しを認めるほか、3月以降に返済期日を迎える借入金のうち約500億円の返済を繰り延べることが検討されている。

事業再生ADRでは、債務整理は金融負債に限定され、仕入れや労働債権などの通常債務はカットの対象とならない。焦点は、取引金融機関の責任負担の割合ということになろう。「まさかプロラタ(融資残高に応じた比例配分)による債権カットにはならないだろう。また、融資債権を優先株式等に変換するDES(デッド・エクイティ・スワップ)も考えられる」(取引金融機関幹部)と見られている。