日本電産と同じアイデアは、すでに昨年12月に経営者も加わった公開シンポジウムで議論されていた。パネリストの1人であった高名な経営者が「雇用を守ってかつ賃金カットという手段をとったらいいと思うのだが、伊丹先生はどうか」と発言されたのである。私の即答は、「大賛成」。じつは私はすでに00年前後に何年間か、当時の日経連の労働問題研究会(その後は、日本経団連の経営労働政策委員会)のアドバイザーとしてたびたび同じ趣旨の発言をしていた。その当時の日本の労働分配率が高くなりすぎたと思っていたので、「賃金を下げる、しかし雇用は守る、と宣言せよ」と主張していたのである。

雇用を守ったうえでの賃金カットは、ワークシェアリングの1つの形態とも言える。ワークシェアリングを制度化するための議論を始めるのもいいが、もっとシンプルにその考えを実行できることを、日本電産は示している。

アメリカや欧州よりも失業率がはるかに低い日本で、これだけ雇用対策が騒がれている。それは社会としてはいいことだと思うべきだろう。雇用は大切という思いを、社会が共有しているのである。

私はこの25年間、日本企業の経営の本質は人本主義だ、と言い続けてきた。人と人とのネットワークを安定的につくり上げ、維持していくことこそ経済合理性の高いことだ、と主張してきたのである。この1月9日に行われた宮中講書始の儀での私の天皇・皇后両陛下へのご進講のタイトルも、「日本企業の人本主義システム」だった。

雇用への対応は人本主義の根幹の部分である。この厳しい状況のもとで、株式会社としての株主への対応と、働く人々の共同体としての企業の雇用への対応と、その両面での対応のバランスをどうとるか。日本企業の正念場である。