なぜ日本電産は「雇用は守る」のか
それにしても米国企業と日本企業の対応はなるほど違うな、と思わせる2つの記事が、偶然にも同じ日の日本経済新聞に載っていた。この1月10日の日本経済新聞一面トップの記事は、アメリカでの雇用収縮であった。トップ見出しが「米雇用 戦後最悪の減少」とある。08年1年間で、雇用が258万人減ったという。失業率は08年12月現在が7.2%。08年11月の日本の失業率が3.9%であるから、日本よりもかなり深刻である。しかも、1年前のアメリカの失業率は5%程度であったから、たった1年で2%以上も失業率が急増した。日本の失業率は1年前は3.8%、この1年でほとんど変わっていない。アメリカは、景気が悪くなるとすぐ雇用に手を付けるのが企業行動の基本なのである。
もう1つの記事は、13面に載っている企業買収などで話題の多い日本電産という企業の雇用調整の記事である。見出しは、「日本電産が賃金カット」そして脇に「社長『雇用を維持』」とある。つまり、一般社員の賃金を1~5%カットする、永守重信社長が「赤字転落を避け、雇用を維持するため。業績回復の見込みが立てば早期に元に戻したい」と言っている、という記事である。日本電産は企業買収をする際にも、「雇用は守る」と明言している企業である。そのスタンスを、今回のような経済危機の中ですでに働いている従業員にも適用しようというのである。さて、次の決算での日本電産の配当がどうなるか、注目されるところであろう。
たしかに、経済組織体である企業としては、その存続の生命線を握っている利益を無視してまで雇用を大切にするわけにはいかないだろう。しかし、働く人々への危機状況での対応として、雇用を維持する代わりに賃金カットをする、というやり方はもっと注目されていい。雇用を削減するということは、それまで働いていた人々の集団の中で、会社を去らざるをえない人と残る人の間に著しい不平等が生まれがちな政策となる。失業する人はある意味ですべてを失ってしまうのである。
それと比べれば、雇用を維持したうえで全員の賃金を(一律ではないにしても)カットする、というやり方は「痛み」のより平等な負担になるであろう。そして企業としては、人件費総額をかなり減らせるのである。もちろん、構造的に巨大な過剰雇用が生まれてしまったような企業にとっては、雇用の維持はあまり合理性のある政策ではないだろうが、景気の一時的な落ち込みに対する対応としては、十分考えられていい。