北京五輪に送り出す親「とにかくケガなく無事に滑ってほしい」
親自身が学生時代に真剣に取り組んだことがある場合、自分の子供に自身の夢を託す親は少なくない。その点、冨田は冷静だった。娘たちの“才能”を感じたのはほんの数年前だったという。
せなは17歳のときに「事実上の世界一決定戦」といわれるBurton US Openに初参戦。いきなり4位に食い込むと、るきも18歳のときに同大会で3位に入った。そこでようやく、「本当に世界トップレベルになったんだ。すごいな」と冨田は感じたという。
「どちらかというと、本当にうちの子がそこまでできるのかと思うときが多い。どうしても大きな大会は海外になっちゃうから、画面越しでしか観ていないんだよ。だからちょっと距離を置いて観られているのかもしれないね」
冨田が海外の試合を現地観戦したのは、せなが高校生ながら8位入賞を果たした4年前の平昌五輪だけだという。その他の大会はテレビ画面での応援を続けてきた。今回の北京五輪は姉妹で出場するが、自分の子供がオリンピアンになったことについては不思議な感覚があるようだ。
「五輪に出場するのはすごいことだというのはわかるんだけど、正直、ピンとこない。他の五輪選手を観ると、やっぱり五輪選手はすごいなと思うけど、その人たちと一緒かどうかは、身近すぎるのかちょっとわからない。五輪選手になっても、普通の娘と変わらないかな」
スノーボードの女子ハーフパイプは2月9日に予選と準決勝、同10日に決勝が行われる。
るきは1月8日のワールドカップを制して、せなが3位。さらに1月22日の世界のトッププロが集結するX Gamesではせなが、持ち味の完成度の高いエアを見せて、昨シーズンの世界選手権で表彰台に立ったアメリカやスペインの選手に勝って、初優勝した。
女子ハーフパイプで日本勢初となるメダルの期待も十分にある。
北京大会前に、地元新潟のニュース番組のインタビューを受けた娘たちはこう言っていた。
「(妹は)一言で言ったらライバル。一番負けたくない」(せな)
「せなより、一つでも高い順位にいきたいという思いが強いので同じ。ライバルみたいな感じ」(るき)
いつの間にか、世界最高峰の大会で並みいる強豪に匹敵する実力をつけた、せなとるきは、仲のいい姉妹であり、最高のライバルなのだ。
冨田は親としてどんな気持ちで本番を迎えるのだろうか。
「ふたりが五輪に出ることは、共に苦労した分、喜びも大きいよ。期待というよりは、毎回そうなんだけど、テレビ画面で観ていると、心配事がでかくなるんだよね。スポーツにはケガがつきものだから。ふたりとも以前、シーズンを棒に振るようなケガ(転倒による脳挫傷など)をしたことがあるので、そういう心配が先に立つかな」
結果よりもまずは無事に競技を終えてほしいという気持ちは親心だろう。たとえメダルに届かなかったとしても、北京五輪に出場するすべてのアスリートはそれぞれの物語を持っている。そして彼女たちを支えてきた者たちにもドラマがある。