「仕事とはこういうものなのだ」という諦念を持つ

だが、仕事に対して、初っぱなからやりがいを求めない諦念を持って臨んでいたらどうだろう?

頭は常に冷静、目の前にある仕事に過剰に期待しないので、裏切られる感もなく、粛々と仕事を進められる。「仕事とはこういうものなのだ」という諦念があるからこそ、仕事を仕事以上でも仕事以下でもないものと受け止めて進められる。

つまらない仕事ほど早く終わらせてしまいたくなる境地に達すれば最高である。

そのような安定した心を持って仕事に臨んでいるうちに、楽しい仕事、個人的に実になる仕事といった、自分にとってやりがいのある仕事と出会えるようになる。仕事に対する期待感を下げていたので、喜びもひとしおである。

僕にも何回か境地に達した経験がある。10年くらい前に、某地方の新規開発営業を任された時だ。事業圏から離れたエリアで見込み客も販路もゼロ。3年計画で基礎をつくるように命じられていた。予算は限られていて、現地スタッフは1名雇用するのが精いっぱい。会社としては、「未開発のエリアで万が一でもビジネスが成立すればもうけもの」くらいの認識だったのだろう。とはいえ担当者としては課せられた目標をクリアしなければならない。

諦めたら成功へのヒントが見えてきた

「3年以内に支社を設立できるレベルのビジネスモデルを立ち上げる。予算もコネもなし。採用可能な現地スタッフ1名」それが条件だった。

ピンチである。このようなピンチのときドラマなら主人公とチームが「目標に向かってゴー!」みたいな熱いストーリーになるが、あえて、マイナスポイントを書き出してみた。仕事が失敗するのは、ありもしないポジティブな要素や過剰な期待値を計画に盛り込んでしまうからだ。僕はその仕事のネガティブ要素をときどき書き出した。

当時の内容を再現すると以下になる。

「コネはない」
「3年では無理」
「予算と人材には限りがある」
「失敗すれば責任を問われる」
「既存事業圏外。販路開発が不可欠」

気が滅入ったが、夢も希望もなくなった分、絶望することもなかった。「ダメでもともと」という開き直りと「早くこの仕事を終わらせよう」という意識を持った。面白くない仕事だと最初から諦めたのだ。諦めて、覚悟を決めると見えてくるものがあった。コネがないことは、しがらみが何もないということであった。予算と人材の少なさはやれることの集中につながった。事業圏外ということは、失敗しても既存事業にかけるダメージはない(少ない)ことだった。

淡々と仕事を進めるうちにそれらに気付いていった。そして、次第に好転した。特にコネがないことが大きかった。完全にフリーだったので、業界のしがらみもなく、どの法人にもアプローチすることができた。アプローチがうまくいかなくても元々何もないのでダメージもゼロ。事業圏内であったら失敗したときのことを考えたり、契約金額によってアプローチを控えたりすることも多々あったが、そういったこともなく新規開発をすることができた。