相手に不快感を抱かせる「Dことば」
簡潔な説明を心がけるだけでなく、説明の際に使うべきでない言葉、使った方が良い言葉、相手に良い印象を与える言葉遣いなども意識しました。
政策案を説明する相手は、必ずしもこちらの案に賛成している人たちばかりではありません。
案に興味のない人、懸念している人、反対の人など様々な相手に説明して、出来るだけ多くの人たちの理解と共感を得て賛成に回ってもらわなければならないのです。
そのためには、相手の疑問点や懸念をも含めて率直なやり取りをする必要があります。その際、ちょっとしたことで不必要に不快感を抱かせたり、相手を怒らせたりしないように注意すべきことは当然です。
望ましいのは、相手に肯定感や安心感、親近感を抱かせ、話しやすい雰囲気を作ることです。
ポジティブで友好的な雰囲気の下では自然に会話が弾み、率直なやり取りもしやすくなります。
私は「相手の気持ちや相手との会話の雰囲気を前向き、肯定的なものにするためのコミュニケーションの仕方」をポジティブ・コミュニケーションと呼んでいます。
ポジティブ・コミュニケーションは、部外者に政策を説明する場合だけでなく、上司として組織を管理する場面でも、私生活で円満な人間関係を作る上でも役に立ちます。
ポジティブ・コミュニケーションの中で、相手に不快感を抱かせないための代表的な技が「Dことばのタブー」です。
会議の雰囲気を冷やすフレーズ
国会担当審議官は、防衛省関係の与党の部会にはほとんど全て出席します。そうした場で原局原課の説明ぶりや応答ぶりを聞いていてとても気になることがありました。
質疑応答の中で役所側が「ですから」と「だからですね」という言葉を使うたびに、確実に会議の雰囲気が冷えていくのです。
そんなことが気になっていたある日の夕方、たまたまつけていたテレビのニュース番組に目が釘付けになりました。
タクシーのドライバーが客に暴行される事案が多発していることから、ドライブレコーダーの記録を分析してその原因を究明しようとしたというニュース特集でした。
それによると、運転手さんのある言葉が客をイラつかせ、怒りをエスカレートさせるのだそうです。それがまさに「だから」と「ですから」でした。
特に、酔客は認識力が低下しているので、道順を繰り返し確認しがちです。
そういう客に対して運転手さんがうかつに「だから」「ですから」を使って答えると、「これだけ言ってもわからないのか」というニュアンスが伝わり、客を怒らせてしまうのだそうです。
そのタクシー会社は、暴行事件を減らすためにこれらの言葉を使わないように乗務員に指導しているということでした。
偶然見た番組だったのですが、目からうろこが落ちたような気がしました。