とにかく、2日までの中国の対応はひどい。IHR第6条に基づく中国側からの自発的な通報をしなかったうえに、検証要請にも期限内に答えず、改めて催促されてから情報提供したというのでは、批判されても当然だ。緊急事態の兆候であると感じた人が少なくない局面にもかかわらず、中国政府が少なくとも対外的には、国際法の順守や情報共有・発信に非常に消極的だったことが明らかだ。

上位の当局者が国際保健の仕組みに疎かったのか、国内を抑えきれば、感染も情報も国外に流出しないとでも考えたのか。あるいはどうしても明かせない事情があったのか。どうあれ、明らかな危機管理上の判断ミスである。

1月2日、日本を含む各国の関係機関にも通知

改訂版タイムラインではこのほか、2020年1月2日に、WHOが「地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(Global Outbreak Alert and Response Network GOARN)」の加盟機関に対し、中国で発生した原因不明の肺炎クラスターについて通知したことが新たに加わった。

GOARNは、WHOが2000年に開設した感染症流行に対する国際的な技術協力体制で、日本を含む各国の保健機関や国連機関、NGOなど250団体が参加する。2日の時点で、すべての人に公表とはいかないまでも、専門家にはWHOから公式の伝達があり、情報が共有されていたことになる。

1月2日は正月休みということもあるだろうが、GOARNには、国立医療機関や大学など日本の19機関が参加しているのに、国内機関から国民に向けての特段の動きや注意喚起はなかった。厚生労働省や文部科学省などの監督官庁には報告しただろうか。これら省庁はこのことを知っていたのだろうか。

あまりにも大きい日米の初動対応の差

厚労省が最初の公式反応にあたる「中華人民共和国湖北省武漢市における非定型肺炎の集団発生に係る注意喚起について」と題した事務連絡を自治体の保健部局に通知したのが1月6日だ。しかも、これは12月31日の武漢衛健委の情況通報を受けてのものだった。

米国は現地時間3日の時点で、米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長が中国CDCの高福所長と電話で話し、アレックス・アザール厚生長官に事態の深刻さを伝えている。アザール氏は即座にホワイトハウスに連絡を取り、米国家安全保障会議(NSC)との情報共有を要請、その後の数日間で情報機関も動き出した。いくら日米で国家の仕組みに違いがあるとはいえ、この差は大きくはないだろうか。

確かに、この時点での軽重の判断は難しかった。だが、今となってみれば、歴史的なパンデミックの始まりである。こうなってくると、国内の初動についても詳細な検証が必要だろう。