世界一になるには、まず裏庭の勢力を排除

では、なぜ中国はそんなに台湾を欲しがるのか。これはまさに地政学的な話です。現在、GDP世界2位の中国は、1位のアメリカに相当迫っています。歴史的に見て、こういった大国が世界帝国に発展する場合に、必ずすることがあります。それは自分の周りの国の影響力を排除しようとすること。裏庭の勢力を排除し、まず周りの海をかためて、そこから外に展開していく。19世紀末から20世紀初頭のアメリカもそうでした。

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アメリカの建国は1776年。イギリスから独立して40、50年経ち、これから外に展開していこうといったときに、アメリカはまだ東部13州しかありませんでした。そこで1823年、アメリカの第5代モンロー大統領は、ヨーロッパ諸国はアメリカに干渉しない、アメリカもヨーロッパに干渉しないことを表明する「モンロー宣言」を出しました。当時、東部13州はアメリカの領土だったとはいえ、北はイギリス、南はスペイン、フランス、さらに南に行くと、またイギリスと、周りには他国の勢力がウヨウヨしていました。つまりモンローさんは「これから俺たちは周りの外国の影響力をすべて排除してやる」と宣言したわけです。

特にアメリカが気にしていたのが、ジャマイカやキューバのあるカリブ海。そのあたりの外国の勢力を排除することで、アメリカは南に抜けて、西に回り、カリフォルニアからハワイ、フィリピンへと出ていくことができました。モンロー宣言からたったの70年弱、1890年にアメリカは南北統一という形で、地域ナンバーワンになりました。19世紀から20世紀に変わる頃です。

中国に地域ナンバーワンのチャンスが到来

かつてのアメリカと同じことを、今まさに中国はやり始めています。中国の周りの海を見ると、黄海、東シナ海があって、さらに南にいくと台湾があって南シナ海がある。中国は南シナ海のナトゥナ諸島まで、自分の海として含めようとしています。アメリカがパナマ運河まで勢力を伸ばそうとしていた構図とまったく同じです。

大国というのは、やはり領土が少ないと不安になる。今の中国は、過去に中国人が航海したという古い歴史を持ち出してまで、一湾岸地域を取りたいという欲望を持っています。

以前の中国は、陸地のほうが大変で、海に出ていく余裕はありませんでした。他民族が馬に乗って攻めてくる、北のほうから来るのが特に凶暴で、万里の長城を築くなど、いろいろな方法で国を守ることに必死でした。そして時は流れて90年代、江沢民こうたくみん時代に国境を画定しようとなった。14カ国接する国のうち、まずロシアと国境を画定させました。ベトナムとは戦争が起こるほど危険な国境争いもありましたが、どうにかこの時代にほとんど画定させました。そうすると余裕ができて、内陸のほうにそんなにリソースをかけなくてよくなりました。

そして2000年代に入って、いよいよ海外展開というところで2001年、海南島付近の南シナ海上空でアメリカと中国の軍用機が衝突する「海南島事件」が起こり、米中関係は一触即発状態になりました。しかし、その後、アメリカはテロとの戦争が始まったため、中国を押さえるのをある程度やめてしまいました。

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そうしたら中国は地域ナンバーワンをめざすチャンス到来とばかりに、軍事力をどんどん伸ばしてきた。本格的に世界帝国となるための踏み台として東シナ海、南シナ海のすべての国を支配下に置いてやろう。そこで最大の問題が、台湾だったということです。「祖国統一」というイデオロギーを掲げて台湾を取るというのは、中国共産党からすると外せない現実なのです。