起床直後に刑務官に連れられ…

オウム真理教の元幹部13人が死刑を執行された際の状況について、法務省は詳細を一切公表しておらず、知ることは極めて難しい。そうした中で、手掛かりとなるのが別の確定死刑囚からの情報だ。

「(2018年)7月6日金曜日の朝のことである。午前7時30分に起床のチャイムが全館に鳴り響いた直後、帽子に金線が入った幹部職員と、ほか数名の看守が足速(早)に私の居室前を通り過ぎた。

『すわ井上君が処刑される』と感じた私は心の平静を失った。なぜならば、こんなにも早く処刑の言い渡しに来るのを見たのが初めてのことであり、ましてや起床直後で布団を畳み終えたばかりだったからである」

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元幹部で、大阪拘置所に移送されていた井上嘉浩元死刑囚が執行された日の様子を、同じフロアに収容されていた岡本(旧姓・河村)啓三元死刑囚は、支援者への手紙に詳しく記していた。岡本元死刑囚は1988年に投資顧問会社「コスモ・リサーチ」社長ら2人を殺害し、強盗殺人などの罪で2004年に死刑が確定した。

「井上君も私と同様、洗顔や歯磨も済ませていなかったと思う。私はこれまで何人もの確定死刑囚とお別れしてきたが、顔を洗う時間や歯を磨く時間も与えられない事があるのだろうかと心の中で疑問が生じ、それを思うと当局に強い怒りを感じた」
「大阪拘置所の対応は、死にゆく者に対する博愛の精神もなく、人間的な暖みすら見せない。義憤にかられた私は、井上君を連行する幹部職員に向ってひとこと文句を言ってやろうかと思ったほどである」(いずれも原文のまま)

元死刑囚が見たオウム元幹部の「最後の姿」

怒りにかられた岡本元死刑囚は、鉄製の扉にある小窓から通路側の様子をうかがった。そこで目にしたのは、房から出されて刑場へ向かおうとする井上元死刑囚の姿だった。

「前後左右を看守に挟まれた井上君が私の居室前を通り過ぎようとした時に、顔を左側に向け、私の方を見た。彼と私は目が合った。井上君は泰然自若。逆に私の方が目のやり場に困り、うろたえたほどである。そんな彼は動揺することもなく、至極りっぱな態度で去っていった。服装は、白色半袖のTシャツを着ており、下は紺色系のハーフパンツを穿いていた。これが、私が見た最後の彼の姿となった」