京大生の敗因は「サイエンスへのこだわり」

さて、私が面白いと思ったのは第2戦だった。今度はA4の紙を5枚用いて工作物を作り、同じように落ちる時間を競う。作品が大きくなるから、前とは違う工夫が必要になる。京大生が作ったのは大きな紙飛行機だった。ホールの2階からゆっくりと弧を描いて飛べば、かなりの時間を稼げると予測したのだ。3回の試技は壁にぶつかったりして途中で墜落、最後の試技で思うように飛ばすことができた。

しかし、今度も京大生は勝つことができなかった。すイガールは、またしても5枚の紙を張り合わせて長方形の大きな紙を作り、それを水平に落とすという戦略に出たのだ。さすがに、今度は紙が折れ曲がり、弧を描かずに落下した。しかし、うまく弧を描くケースもあり、紙飛行機よりはるかに長い時間を稼ぐことができたのである。

講評で、私はすイガールの、まとまる力、勝利への意欲、こだわりを捨てるいさぎよさが京大生に勝っていたことをたたえた。理学部長の私としては京大生が2戦とも敗れたことは悔しかったし、彼らを不甲斐なく思ったこともたしかだ。

だが、一方で彼らの戦いぶりを誇らしくも感じた。京大生の敗因は、サイエンスへのこだわりを持っていたからだと思ったからである。彼らは1枚の紙が描く軌跡にうすうす気がついてはいたのだが、まったく何も手を加えずに勝負することに大きなためらいを覚えたのだ。

2回目はさらに、その原理を知ってしまったがゆえに、相手の用いた方法を採用することができなかった。別の方法で勝たなければ自分たちのプライドが許さなかったのである。負け惜しみではなく、私はその態度をとてもうれしく感じたのだ。

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京大生チームの常識にとらわれない発想力

これには後日談がある。翌年の2013年に今度は東京で、これまですイガールが対戦した東大・京大・北大・東北大の4大学のチームと5チームで競い合うという催しが開かれた。このときの問題は、プラスチック製の2本の縄跳びの紐を材料にして、はさみと糊でいかに高い構築物を作るかというものだった。

山極寿一『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(朝日新書)

結果はまたしてもすイエんサーチームの勝利に終わった。このとき、京大生のチーム以外はすべて、まず縄跳びの握りに使われているプラスチックを組み合わせて安定した土台を作り、その上に紐で作った塔をいかに高く積み上げられるかに腐心していた。すイガールが勝ったのは、紐の端が天に向かって最も高く伸びていたことによる。

しかし、京大生のチームは違う考え方をした。まず紐と握りを組み合わせて最も長い構築物を作り、それを立てて安定させようとしたのである。実は、これらの試技はいったん構築物を立ててから、支えなしに1分間倒れないようにすることが条件だった。京大生の作品は高さでは圧倒的に他を抜きんでていたものの、1分間立っていられなかったのである。

私は京大生をはじめとして4大学の学生がまたしても惨敗したことに悔しい思いをしたとともに、京大生の考え方にひそかに拍手を送った。そこには、常識にとらわれない発想が潜んでいると思ったからである。