アメリカで、無宗教の人が増えている。心理学研究者のフランク・マルテラさんは「科学的世界観が広まり、多様な宗教に触れることで、宗教が自身の属性ではなく、単なる好みとして扱うことが普通になったためだ」という——。

※本稿は、フランク・マルテラ『世界一しあわせなフィンランド人は、幸福を追い求めない』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を再編集したものです。

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500年前から西洋人の価値観を変え始めたもの

近代の西洋社会では、ロマン主義が興り、科学的世界観が広まっていくと同時に、他にもいくつかの大変革が起きた。そうした大変革も、人生の意味に対する考え方や、宇宙における人間の地位のとらえ方に大きな影響を与えたと言っていいだろう。西洋人の価値観、意識は500年前くらいから急激に変化したのである。特に影響力が大きかったものは3つある。

1つは「人間主義(ヒューマニズム)」だ。これは、それまでより人間を高い地位につける考え方である。神や精霊、運などが人生を決めると考えるのではなく、人間が自分の力で自由に人生を切り拓いていくと考える。

この変化は、たとえば1641年に出版されたルネ・デカルトの著書『省察』などに明らかに表れ始めている。デカルトはこの本の中で、神の存在や魂の不滅を徹底して疑うのだが、いずれも合理的な疑いを超えたものだとした。デカルトの意図は宗教や神の否定ではなく、最終的に、神への信仰はひとまず疑いの余地のない基盤であると結論づけた。

しかし、デカルトは時限爆弾を仕掛けたようなものだった。理性によって神の存在を証明しようとしたからだ。これは、人間の思考力を神の上に置いたということである。大逆転が起きたのだ。

それまでは、神の存在が人間の理性の基盤だったのだが、反対に、人間の理性があってはじめて神が存在するということになった。デカルト本人も彼の同時代人も気づいていなかったが、理性の力で神の存在を証明できるのだとしたら、その逆に理性の力で神の不在を証明することもできてしまうのである。