一部しか恩恵を受けていない「いざなみ景気」

【北見】全国で見ても、この恩恵にあずかったのは大企業の一部の人たちだけでしょう。1997年の金融危機のあと、大企業は正社員の数を抑制し、給料の低い派遣社員など非正規社員を増やしました。リーマンショックが起きるとこうした非正規社員は切り捨てられ、2008年末からの年越しでは、生活困窮者のために東京の日比谷公園に年越し派遣村ができたのは周知のとおりです。

ちなみに先ほど、賃金の調査はさまざまあると言いましたが、アテにならないのが、公務員の給料に反映される人事院の民間給与実態調査です。これによれば、勤労者の年収は1997年からの10年間で2万1000円も上昇したことになっているのです。この調査は対象企業を抽出して調査員が実地調査しているのですが、公務員の給料を上げるために民間企業の給料が上がったと見せかけたようにしか思えません。

中小・零細企業の平均年収は大企業の半分

野口悠紀雄/ほか著『日本人の給料 平均年収は韓国以下の衝撃』(宝島社新書)

【北見】安倍政権は賃金を引き上げるために官製春闘を実施して、政策として最低賃金の引き上げも続けました。その効果はあり、平均年収が上昇に転じたことに加え、正規従業員の数は2012年の3012万人から2019年の3485万人まで473万人も増えました。正規従業員の平均年収は、同期間で468万円から505万円まで37万円増えています。

しかし、アベノミクス以降は大企業と中小企業、または東京と地方などの格差が開きました。国税庁の統計では、資本金に応じて企業を分類しています。一番大きい企業群が資本金10億円以上(大企業)で、一番小さい企業群は資本金2000万円未満(中小・零細企業)です。両者を比べると、大企業の平均年収は2012年の653万円が2019年には705万円まで増えており、中小・零細企業の平均年収も同様に同期間で359万円から395万円まで増えているのですが、その差は295万円から311万円に開いたのです。そして大企業の平均年収705万円に対し、中小・零細企業の平均年収は395万円。割合にして56%であり、大企業の半分です。