感情によって左右される有権者の行動

先のポール・スロビックらは、感情ヒューリスティックに関する研究を深めていくなかで、感情がリスクとメリットの判断に、次のような影響を与えることを発見した。

(1)好ましい感情を持っているときには、メリットが大きく、リスクは少ないと判断する
(2)嫌な感情を持っているときには、メリットは小さく、リスクは大きいと判断する

これがよく反映されやすい例が、選挙における候補者の行動と有権者の行動だ。候補者はあの手この手を使って自身の好感度を高めようとする。好感度が高い、つまり候補者に対して好ましい感情を持ってもらえれば、投票してもらいやすいためだ。

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まず、候補者は選挙への出馬にあたり、それまで見たこともないような笑顔の写真入りポスターを作製する。見た目の雰囲気で有権者に好印象を与えたいからだ。

次に、重要なのは自身の政策を含むメッセージを有権者に「いかに好印象で」伝えるかだ。緊急事態宣言等による行動規制が長引き、精神的に不安定だったり、ストレスでイライラしたりするメンタル不調の人が増えている。

こういう状況下では、何が言いたいのかよくわからない「もやもや」トークや官僚的な堅苦しい紋切型文章は好まれない。むしろ「キレ味」がよく、「わかりやすい」ものが好まれる。

政治家のSNSに、気を付けなければならない理由

かつて小泉純一郎氏が自民党総裁選に立候補した際に「自民党をぶっ壊す」と発言して人気を博し、一気に総裁の座を獲得したことは有名だ。首相になってからも「ワンフレーズ・キーワード」でわかりやすい発言を繰り返し、高い支持率を得た。

小泉政権の時代には存在しなかったが、この「ワンフレーズ・キーワード」と相性がよいのがツイッターやインスタグラムなどのSNSだ。

実は本稿執筆時点で自民党の総裁選挙が進行中だが、242万人のツイッターフォロワーをもつ河野太郎氏をはじめ、各候補者がSNSの活用に注力している。

ツイッターでは文字数制限のため、一回の投稿でなるべく短く印象的に書く必要がある。だが、より波及効果を得ようとして、文字メッセージより扇情的な写真や動画を音付きで投稿する傾向が強い。すると投稿に対する「いいね」は、内容より添付のビジュアルで判断されやすい。

有権者が候補者に直接コメントできるのがSNSの利点だ。候補者との直接のやり取りができると候補者への好感度は高まりやすい。一方、コメントは短めの方が相手に読まれやすいため、手短で内容の浅いコメントが多くなりやすい。

こうして相手に好感を持たれようとするほど、候補者の考えや政治家としての資質・実力と無関係な部分で有権者に評価されやすくなっていく。