「聞くべきことはきちんと角度を変えて繰り返し聞く、とりわけ批判的な側面からインタビューをし、そのことによって事実を浮かび上がらせる。それがフェアなインタビューではないだろうか」

インタビューのイロハだと思うが、こうした当たり前のことさえできないNHKという組織は、腐食が思いのほか進んでいるといわざるを得ない。

島桂次、海老沢勝二など、有力政治家たちとつるんで権勢を振るってきた歴代会長から、小物になったとはいえ、その悪しき伝統は今も続いている。

国営放送化を目論む菅首相の野望

そんなNHKを菅が黙って見ているわけはない。森功は『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)で、菅は総務大臣就任当時から、NHKを国営放送にして操り、そのための見返りとして受信料を義務化する考えだったと書いている。

その前段階の受信料義務化が達成されたのは2017年12月6日であった。

受信料契約を拒んだ男性にNHKが支払いを求めた訴訟の上告審で、最高裁が、「テレビがあればNHKと契約を結ぶ義務がある放送法の規定は合憲」だという判決を下したのである。

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この司法判断の裏に、安倍や菅の何らかの働きかけがあったのではないかと考えるのは“邪推”だろうか。

その結果、受信料の申し出が通常の数倍にもなったという。

その後、ネットでの同時配信も始まり、テレビを持たず、スマホやパソコンで視聴する人間からも受信料を取る仕組みができつつある。

そうした背景を考えると、官邸の傀儡である籾井会長を実現させ、政権に批判的な人間を次々に降板させていく、安倍と菅の思惑が透けて見えるではないか。

菅が総務大臣だったのは第1次安倍政権の1年だけだったが、総務省を自分の「天領」にしようともくろみ、着々と手を打ってきたのは間違いない。

旧郵政省を掌握した田中角栄が重なる

今は総務省に吸収されたが、旧郵政省に最初に目をつけたのは田中角栄だった。

彼は、ここを牛耳ればメディアはオレにひれ伏すと考えたのである。

「俺はマスコミを知りつくし、全部わかっている。郵政大臣の時から、俺は各社全部の内容を知っている。その気になれば、これ(クビをはねる手つき)だってできるし、弾圧だってできる」

これは田中角栄が総理に就任した直後の1972年8月に、番記者たちに語った「軽井沢発言」として知られている。

この中の「郵政大臣」を「総務大臣」に置き換えれば、菅首相の「本音」と同じではないか。