「言うべきことは言いたい」と語った大越キャスターも…

だが今のNHKを見ていると、受信料を払っている国民のほうは向かず、官邸や総務省ばかりを向いているといってもいい。

有馬降板で思い起こされるのは、同じ番組でキャスターを務めていた大越健介の時のことである。東大の野球部で活躍したスポーツマンで、ものいうキャスターとして人気があった。

だが安倍首相(当時)は、大越の話すことがいちいち癇に障るようだった。週刊現代(2015年4/4日号)で大手紙政治部記者が、「一度、私が公邸で同席したときは、大越さんがコメントを始めると舌打ちして『また始まったよ』とぼやいていました」と語っている。

これも籾井会長時代。安倍と特段に親しい岩田明子NHK記者も、大越のコメントの仕方に不満が溜まっていたと週刊現代が報じている。同期にはやはり安倍首相にきわめて近い小池英夫(後に政治部長、現在は理事)がいて、大越と出世を競っていたという。

そんな中で大越は、「政治に対しては多少モノを言いたいと思うし、(3.11の=筆者注)原発事故に関しても、やっぱり言うべきことはきちんと言いたい。NHKだから無味乾燥でいいということは、絶対にないと思います」と、週刊現代のインタビューで語っている。

こういう姿勢のジャーナリストが、よく5年も持ちこたえたと思うが、突然、降板をいいわたされたのである。

小池は報道局長時代、森友事件を執拗に追いかけ、数々のスクープをものにした相澤冬樹記者の記者職を解き、退社へ追い込んだことでも知られている。

菅首相に食い下がった『クロ現』国谷氏の述懐

『クロ現』の国谷裕子がNHK側から、「契約更新をしない」といわれたのは2015年12月であったという。

その前年の7月3日、集団的自衛権の行使容認をテーマに菅官房長官(当時)が出演した。

国谷は、菅の発言に対して何度も「しかし」と食い下がった。

最後の質問が終了直前だったため、菅の言葉が尻切れトンボで終わってしまった。菅周辺が「なぜ、あんな聞き方をする。『しかし』が多すぎる」とNHK側に文句をいったそうだ。

現場は国谷の続投を強く望んだが、籾井会長は菅に詫びを入れ、国谷降板の流れができてしまったそうである。

国谷は世界(2016年5月号)で、時間をキープできなかったのは私のミスだったと認めながら、こう書いている。