デジタル化された個人情報は目に見えない

情報のデータ化とネット化が、ほんらいは他人には漏れないはずの個人のプライバシーを露出させています。さらにこれからは、個人の内面に属するような情報すら流出してしまうということも起こりうる。こんなことをいうと、大げさに危険性をあおっている、と反発されるでしょうか。

たしかにデータ化、ネット化といっても、言葉や情報がすべてデータ化しネットに流れているわけではありません。たとえば私の仕事部屋を見回してみます。うんざりするほど溜まっていく本が所狭しと積まれています。資料や書類の束が棚から今にもこぼれ落ちそうなほど差しこまれていて、リサイクルゴミに出す新聞や雑誌も床に放置されている。すべて紙とインクのアナログ情報ばかりです。

ではデジタル情報はどこに? ありました。電子書籍の端末、CD、DVD、そしてなにより2台のパソコン、スマホ、そればかりか冷蔵庫や洗濯機、エアコン、テレビに組み込まれたマイコンにもデジタル情報がつまっています。パソコン、テレビ、スマホなどはスイッチを入れると、たちまち無限大ともいえるデジタル情報とつながります。現在、世界に流通している情報のうち、紙とインクによるアナログ情報はわずか1パーセントにすぎないともいわれています。将来この数字は限りなくゼロに近づいていくでしょう。

こうしてあらためて自分の周囲を眺めると、本や新聞と違って、デジタル化された言葉や映像はスイッチを入れてアクセスしないかぎり「見えない」のだということに気づきます。実はここに落とし穴があります。ふだん隠れている膨大な量の情報で、私たちの暮らしは構成されている。そのなかに守られるべき個人情報もあるのですが、それらは目には見えない。私たちがうかがい知れないどこかに「保管」されているのです。

個人情報は常に監視され、漏れ出る可能性がある

2013年のことですが、自宅に一本の電話がかかってきました。利用しているクレジットカードの会社からです。「◯◯で家電製品など買い物をされましたか?」

突然のことでびっくりしました。私のカードが盗まれて他人に悪用されたようなのです。あわてて財布を調べてみると、該当のカードは無事に入っていました。ネット上でショッピングした際に誰かに盗み見られたか、もしくはレストランなどの支払いでスキミングによって情報を読みとられたのかもしれません。

写真=iStock.com/martin-dm
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それにしても不思議でした。なぜカード会社には、その不正使用が分かったのでしょうか。当たり前のことですが、会員によるカード使用の全データを会社は把握しています。それをさまざまな方法で分析して、不正使用を見抜けるように、その規則性を見つけだそうとしています。おそらく私のカード情報を盗んだ「犯人」は、不正な使用パターン通りにカードを使って、監視の網に引っかかったのでしょう。おかげで私は、買ってもいない腕時計や金のブレスレットの支払いに追われることもなくすみました。この一件は重要な個人情報が常に誰かに監視されていて、場合によっては簡単に漏れ出てしまうということを示しています。