人とのつながりが、幸運を呼び込む

スクールのイベントでは玉砕したものの、気を取り直して私は作品制作に取り組み、完成したデモリールをCGスタジオ30社に発送した。自分でも渾身こんしんの出来映えだと感じた「仁王像」などが評価されたのだろう、あちこちのCGスタジオから仕事が舞い込むようになってきた。

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デモリール用に製作した仁王像

そんな中、デジタルドメイン社から電話があった。同社の共同設立者は『タイタニック』などで知られるジェームズ・キャメロン監督である。打診された仕事は映画ではなくコマーシャル関係だったが、当時私が一番働きたいと思っていたスタジオだった。

何としてでもデジタルドメイン社の仕事は請けたい。何か手はないか。

思い出したのは、10年前に出会った日本好きなアメリカ人男性リチャードだ。彼とはCGソフトウェアのイベントで出会い意気投合したが、その後デジタルドメインのスーパーバイザーになったと言っていたような記憶がある。

彼のウェブページを探し、10年ぶりに連絡を取った。図々しいが、ダメもとである。自分のデモリールがデジタルドメインで評価されそうになっていること、できればプッシュしてほしい旨を書いた。すぐに、彼から返事が返ってきた。「覚えているとも! ゲンキ⁉ 実はその評価者は僕なんだ」

なんという偶然か。あっさりと憧れのデジタルドメインで働けることになったのだ。

ハリウッド映画のエンドロールにクレジットされることに

デジタルドメインの仕事は4カ月で終わり、私はまた職探しを再開することになったが、以前に比べて状況はよくなっていた。半年前の私は、プロのCGアーティストになれるかどうかわからず、何者でもなかった。だが、今はプロとして何本かの仕事をこなし、モデラーとしての腕も認めてもらえるようになり、仕事を通じて業界とのコネクションもだいぶできていた。CGイベントなどの就職イベントに参加すると、いくつかオファーももらえるようになっていた。

そんな時、携帯電話にかかってきたのが、メソッドというスタジオからのオファーだ。メソッドからは一度オファーがあってその時は断ったのだが、今回はなんと『エルム街の悪夢』のフレディのCGモデルを担当しないかというのだ。

『エルム街の悪夢』のプロジェクトにおいて、メソッドのモデラーは私一人という状況だったから、目もくらむような忙しさの数カ月を送ることになった。

2010年4月末に公開された『エルム街の悪夢』、最後に流れていくスタッフロールにモデラー「Masa Narita」の名前を確認したときは、感極まって涙が出た。「5年以内に、ハリウッド映画のエンドロールにクレジット」という2008年3月の誓いは、予定よりも早く達成できたことになる。

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メソッド社のメンバーとの集合写真