軍で起きた武器弾薬の溜め込み、ナチ礼賛の表現…

ところが、一昨年あたりから、連邦軍の不祥事が取り沙汰されるようになった。現在の連邦軍、それも一部のエリート部隊の中に、よりによって、戦前までの国防軍を礼賛する空気があると言う。摘発された中には、実際に武器弾薬を溜め込み、政府転覆の機会を狙っていたらしいグループもあり、国内に戦慄が走った。

一方、それ以外のケースは、彼らが仲間内でやっていたグループチャットに、人種差別的な書き込みや、国防軍の装備である鉄兜などのシンボル、また、ナチ礼賛の表現があったことなどが発覚したもので、いずれも処分が相次いだ。もちろんドイツでは、これら極右イデオロギーや人種差別的表現は固く禁じられている。

ただ、その結果、他の兵士も十把一絡げにされ、連邦軍全般に極右の思想が蔓延はびこっているという疑いが生じた。連邦軍の評判は地に落ち、この際、一から組織し直すべきだという意見まで出た。アフガニスタンからの兵士の帰還が大きく取り上げられなかった背景には、そういう空気も影響していたと思われる。

なぜ“ありがとう”と“ご苦労様”がないのか

そして、それに憤ったのが前述のヘルミッヒ氏だった。「兵士に対する尊厳の喪失は、政治的、そして感情的なマイナスである」と。海外での軍事的責任は国防省にあるが、海外派兵には外務省が重要な役割を果たす。しかも、最後の決定を下すのは議会だ。「だからこそそれぞれの機関の代表者は、この記念すべき日に姿を現すべきだった」とヘルミッヒ氏。軍楽隊も長いスピーチも要らない。しかし、なぜ、“ありがとう”と“ご苦労様”がないのか?ということだろう。

その後、8月31日にアフガニスタン撤退の記念式典が行われることになったが、ヘルミッヒ氏はメルケル首相の列席を強く期待するという。「私の記憶が正しければ、過去16年間の軍事行動の頂点にいたのは彼女だったはずだ」という彼の言葉には、今回のメルケル首相の沈黙に対する強い抗議が込められていた。

ドイツで極右といえばナチに直結し、ナチの擁護や礼賛は刑法に抵触する。だからこそ右傾は極右化の始まりとして危険視され、芽の出た時点で潰さなければならない。とりわけ連邦軍の右傾化は警戒される。