具体的には「ワニの口」のように開いた「民間部門の超・貯蓄過剰と政府部門の超・貯蓄不足」という構図が常態化し、「貯蓄が正義」という観念が強まる中、賃金はおろか金利も物価も半永久的に上がらない経済がいよいよ固定化するのではないかと危惧した。

図表1は2021年1-3月期までの日本のISバランスだが、「ワニの口」は家計部門の貯蓄過剰を主因としてさらに開いてしまった。

エビデンスのないコロナ対策と失望感の影響

年初の時点では、まさか状況が悪化するとは思いもしなかったが、国内に目をやれば相応の施策が打たれているのは確かである。

7月12日から8月22日までの42日間という期間は当初設定としては4度目にして最長であり、相変わらず一部業種(とりわけ飲食業)に感染源を帰責させようとする根拠不明の対策が展開されている。

同時期に重なった東京五輪は基本的に無観客開催が決定しているが、サッカーや野球などのプロスポーツは有観客で開催されていることを思えば、理解の難しい決定である。また、即時撤回こそされたものの、一部閣僚から金融機関をも巻き込んだ飲食店締め上げも示唆され、その波紋はまだ収まっていないようにも見える。

どうみても半年前と比較して社会全体に猜疑心が充満しており、端的に言えば雰囲気は悪くなっている。なお、切り札だったはずのワクチン接種は順調に進んでいたものの、「実は在庫がない」という事実が露呈し、ここでも失望感が生じている。

猜疑心が「民間部門の貯蓄過剰」を招いている

かかる状況下、家計・企業といった民間部門の消費・投資意欲は再び落ち込むことはあっても盛り上がることは考えにくい。

いくら感染防止に協力しても、その対価が「感染者が増えたので自粛しろ」という状況が繰り返されており、「今後も何があるか分からない」という猜疑心を政策当局に抱く向きは多いのではないか。

一般的に予測可能性が低い時に消費や投資が盛り上がることはない。ISバランスにおける「民間部門の貯蓄過剰」は膨れ上がった猜疑心の結果ではないだろうか。

例えば、4月末の緊急事態宣言は「短期集中」と銘打たれたが平然と約2カ月も続いた。宣言期間の延期は常態化しており、「どうせ今回も8月22日で終わるはずがない」という思惑はくすぶる。