「人種差別だ」一つ星レビューに400件

そこでAmazonを覗いてみたら、この絵本は人種差別だとか、不快なプロパガンダだと非難する一つ星のレビューが10件上がっており、それぞれに300~400の「参考になります」ボタンが押されていた。驚くべき「動員力」だ。

日本のYouTubeなどでも、天安門事件や台湾問題、あるいはコロナやワクチンに関して中国共産党の気に障ることを言うと抗議が殺到したり、アカウントが停止されたりということが、すでにしばしば起こっている。また、中国には、大量の偽情報を流す専門部隊が存在するとも言われる。

2010年にできた国防動員法によれば、中国人はどこにいようが、有事の際は中国政府の指示に従い、国防に加わる義務がある。日本に置き換えるなら、さしずめ、私のような在独の邦人全員に所轄の大使館や総領事館からメールが来て、「ベルリンに慰安婦像が設置されそうだ。これはわが国の安全保障に関わる問題だから、抗議運動に参加せよ」と命じられるようなものだろう。

これが在外の中国人コミュニティーでは機能しており、だからこそ、ドイツのAmazonにドイツ語のレビューが載り、300~400もの「参考になります」ボタンが押されるのだ。ひょっとすると、いざというときに国防動員法がスムーズに機能するための訓練として、時々、他愛のない案件でこういう号令がかかるのかもしれない。

虎の尾を踏まないよう気遣ってきた

これまで中国とドイツの間には、表立った摩擦はなかった。あったとしても、それらはたいてい水面下で解決されてきた。特にメルケル首相は、中国政府からいちばん愛され、珍重されていた西側の政治家だ。EUが中国のダンピング(不当廉売)などで制裁をかけようとすると、それを「まあまあ」となだめるのがメルケル首相の役目だった。

中国の人権蹂躙などに対しても、ドイツの政治家の抗議はふんわり優しく、クリミアの併合については米国やEU諸国と一致団結してロシアを制裁するが、中国の香港に対する締めつけには、「民主主義は守られなければならない」と小声でボソボソ……。台湾が中国の不可分の領土であるというなら、それにも反論しない。

この政府の態度は、もちろんドイツ企業と一丸だ。企業にとっては、香港や台湾がどこの国の領土で、誰が実効支配しようがたいして実害はない。要は、中国という虎の尾を踏まないように注意すること。