「大切に育ててきたつもり」の落とし穴

龍龍は一人っ子なので、何よりあの子が大切だというあなたの気持ちは分かります。しかし、ここ数日の様子を見た結果、恐らくあなたのお子さんは甘やかされ、無視された子どもであるとお伝えしなければなりません。

きっと納得できないでしょう。こんなに愛しているのに、自分があの子を無視しているわけがないと思うでしょう。でも、私たちは龍龍のような子を何人も見てきました。この子たちの親は、自分に対する埋め合わせのために子どもを甘やかしているのです。

親は自分の姿を子どもに投影しているだけなので、結果的に子どもの心の中にある本当の要求は無視されてしまいます。こうした子どもは親に拒絶された子どもと同じく、過剰なまでに大人の注目を集めたがり、深刻な場合には、力で人を支配しようとする人間になります。自分の非を認めない、何でも一番にこだわる、負けず嫌いといった性格は、子どもに対する親の期待と関係していることが多いです。

親の期待に応えようとして、子どもが無意識に自分の感情を閉ざしてしまうと、外に表れる言動と心の中の要求がどんどん離れていって、最後には人を思いやる心を失ってしまいます。これは本当に心配なことです。

写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです

親の自己投影のために子どもが使われている

子どもの要求を「直視」するとは、ひたすら子どもの求めに応じることではありません。子どもが社会や他人と関わり合い、社会性や対人関係を学ぶためには、親が真剣に子どもの要求に向き合い、先入観のない態度で応じることが必要です。親が子どもを甘やかす、または拒絶していると、結局は子どもの心の要求が「直視」されないままです。

だからこそ多くの親が戸惑いながら「心血を注いで育てたはずが、どうしてこんな難しい子に?」という疑問を抱きます。それはこうした親の努力が、全て自己投影や自己満足のために費やされていたからなのです。

例えば、子どもがロックマンのおもちゃが欲しいと言ったとします。欲しい物を買えなかった子ども時代の埋め合わせがしたい親、子どもに面倒を起こされたくない親、子どもに後ろめたさを感じている親は、口をそろえて「いいよ! お金をあげる」と言い、子どもを拒絶する親は「ダメ!」と言うでしょう。

でもどちらの場合も、親は子どもの要求を直視していません。なぜなら、親は子どもがおもちゃを欲しがった理由も知らなければ、この要求に対する自分の理解や、この答えに至った理由を子どもに伝えてもいないからです。