冷酷な意見かもしれないが、家族間で感情的な対立が発生したとき、法律論でどうにか修復できるものではない。外形的には解決できたとしても、また別の問題を生みだすばかりで本質的な解決にはならない。いずれか一方が会社から離れることでしか、抜本的な解決にならないケースが多い。
このとき、退職する側から高額の退職金を請求されることがある。社長からすれば、「兄弟だからといって甘えている。他の社員との整合性がとれない」と反対したくもなるであろう。
さりとて立ち去る側としては、「自分は身内に排除された」という感情がどうしても残ってしまう。後継者は、こういった兄弟の犠牲の下で事業を営むことがあるのも事実だ。せめて退職時には、相手の要求にできるだけ応じたほうがいい。
会社を去る側への配慮を忘れてはいけない
立ち去る側が自社株を保有している場合には、これもすべて買い取るべきだ。
自社株の価格についても、あまり交渉をしないほうがいい。価格で交渉して「それなら売却しない」となれば、いつまでも会社の経営に口を挟んでくることになりかねない。立ち去るときには、事業に関することはすべて整理させるようにしておくべきだ。事業から完全に離れることで、いったん傷ついた人間関係も修復させやすい。
もっとも、場合によっては、年齢や経験からいって、退職して別の仕事をすることが難しいということもあるだろう。そういう場合には、自社の事業の一部を切り分けて、別会社を設立させたうえで、社長に据え置くこともひとつの方法だ。事業の一部を切り分けるのが難しければ、資産管理会社のようなものであってもいい。
大事なのは「社長」という肩書きを用意してあげることだ。本社に籍を置かせず、「グループ会社のトップ」というかたちで任せることで、適度な距離感を保ちつつ、生活を支えることになる。
「カネの管理は一番信頼できる人に」が裏目に
事業承継における親族間のトラブルは、なにも兄弟間だけで発生するものではない。後継者と先代の妻、つまり母親とうまくいかずに困ってしまうケースもある。
兄弟と違って、社長の椅子を狙って後継者と母親が対立するということはない。むしろ母親としては、後継者を支えて自社を守ろうとするものだ。ただ、会社の守り方がときに後継者にとって疎ましくなる。
先代が亡くなれば、たいていの場合、先代の妻ではなく子が社長として事業の采配を振ることになる。後継者が若い場合は、一時的に先代の妻が社長になるものの、実質的には後継者が現場を仕切ることが多い。