どんな環境にいてもモノづくりの人には響く

【松浦】世の中にはある種、センシティブな人がいるでしょう。僕はちっとも恥ずかしい話とは思っていないけれど、センシティブな人から見れば、「松浦は刑務所に友達がいて、そんなのと文通してる」みたいに取る人もいる。でも、僕にとってはいつまでも後輩ですし、幼なじみですし、何年もずっと文通を続けているんです。

いつか、会える日が来るかもしれないのだから、文通して、自分が感動したり、もしくは自分が学んだ本を送ってあげたい。だから、彼が過酷な環境のなかで、トヨタの生産方式を参考にして、モチベーションを高めてがんばってるというのは非常にうれしいことです。

この本、どんな環境にあっても、モノづくりの人にはやっぱり、いい話なんです。いや、ほんとに読んでよかったなあと思います。

創業期が現代のスタートアップとは違う

【松浦】この本はまず、トヨタの草創期から現在までの非常に正確な記録としても読むことができます。そして、(トヨタ生産方式を体系化した)大野(耐一)さんという人の偉大さ。それを野地さんが僕の横で話してくれていると感じます。だからこんな分厚くてもあっという間に読むことができる。

——嬉しいお言葉です。

【松浦】読み終えて、僕はもう1回、野地さんの話を聞きたいと思って、また読んで、今回、インタビューに答えるので、また読みました。3回、読んだわけです。なかなかこれだけの厚さの、400ページを超える本を3回読むって大変ですよ。いくら読書好きといっても、日々の仕事もありますしね。

でも野地さんが真横に座って僕に話をしてくれている。そんな感じを持たせてくれる文章だから、あっという間でした。

あと、この本に描かれているトヨタが豊田喜一郎という、ひとりの人間から始まっていて、それがどういうふうにスケールアップしたのかは、今の若い人は新鮮に感じるんじゃないかな。今のIT企業などを見ると、スタートアップから成長までが早いでしょう。でも、トヨタは着実に、盤石に進んできた。そういう例もあることを知るのは逆に新鮮でしょう。

「1日に10回、手を洗え」の本当の意味

1987年でしたか、『エスクァイア』の日本版が創刊されて、世界の実業家とか、世界に影響を与えた人のインタビューが載っていました。そのなかにはアップルのスティーヴ・ジョブズのインタビューなどもありました。でも、僕が覚えているのは(トヨタ名誉会長の)豊田章一郎さんが社長時代のインタビューでした。章一郎さんがトヨタと、父でありトヨタ創業者の喜一郎さんについて、ある遺訓を語っていたのです。