その背景の一つに、経済と社会運営の効率性を高める考えがあるだろう。例えば、現金の利用には、保管場所や輸送手段の確保、偽造防止のための対策、金融機関の店舗やATM運営などのコストが発生する。中央銀行デジタル通貨の利用によって、運搬や機器の運営などのコストは低減するだろう。それらはデジタルドルのメリットといえる。

クレカの利用減、サイバー攻撃のリスクも

その一方で、デジタルドルは、経済にデメリットを与える可能性もある。デジタルドルが実用化されると決済の期間は短縮化され、リアルタイムで決済を行うケースが増えるだろう。それは、クレジットカードの利用機会の減少につながり、大手のカード会社の収益の減少要因になるかもしれない。サイバー攻撃が金融システムに与える影響も増大する恐れがある。

このように、デジタルドルをはじめとするCBDCには、メリットとデメリットの両面がある。そうした変化に米国経済と社会全体が対応するためには、入念な準備が欠かせない。FRBは状況に応じてデジタルドルの実用化を目指すことができるよう、十分な助走期間を確保するために研究や実務家との意見交換を推進しようと考えているようだ。

デジタル人民元を急ぐ中国の存在

また、FRBにとってデジタルドルの研究は、“基軸通貨”としてのドルの地位の維持にも重要と考えられる。どの通貨が基軸通貨に選ばれるかは、世界全体での人気投票による。現在、世界の多くの投資や貿易などの決済がドルで行われているのは、多くの国が米ドルを信認していることの裏返しといえる。

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ドルの信認を支える要素として、世界の政治、経済、安全保障のリーダー(覇権国)としての米国の地位は大きい。現時点で考えると、短期間で基軸通貨としての米ドルの地位が不安定になる展開は想定しづらい。