スポーツで得られる3つの能力

【李】医学部に入るには難しい。受験勉強に没頭して、社会性がないがしろにされがちということですか?

【原田】その通りです。加えて、中身は全く「先生」ではないのに20代半ばから、何十年も先生と呼ばれ続けると勘違いしてしまう。ぼくたちにとっては頭が痛い部分です。

【李】そこでスポーツの存在価値が出て来るかもしれません。ぼくはスポーツをやることで3つの能力を得られると言い続けてきました。1つは指導者の言葉を聞く能力、2つ目は観察する力。3つめは反省する力。スポーツとは、規律、社会性を身につけ、少年を大人の男性に、少女を大人の女性にするものです。

【原田】確かに体育会系の人たちは礼儀正しいという印象があります。

【李】ただ、社会性はどうかとも思うんです。日本では体育、あるいは軍事教練のような特訓とスポーツが混同されてきたような気がします。スポーツの本来の意義を考え直さなくてはならない。

撮影=中村治
サッカー指導者の李国秀氏

個とグループという2つの視点

【原田】李さんは、「噛み合わせ」という言葉を使われました。医療もチームプレイなんです。李さんのおっしゃることは医療にも通じます。チームの中で理解度の差がある場合もある。

【李】桐蔭学園の場合、年間十人の中学生を獲ることができたんです。ぼくがいいと思った選手を十人集めても、どうしても理解度、力量は上中下に別れる。ただ面白いもので、試合に出られる選手はきちんと理解しているんです。大切なことは公平にチャンスを与え依怙贔屓えこひいきをしないこと。そして試合での基準はトレーニングでやったことを再現できるかどうか。

【原田】つまり基準がぶれなければ、チームとして機能すると。その意味では、練習は1時間。大切なのはそれ以外の時間をどう過ごすか、ですよね。

【李】いい指摘ですね(笑)。確かに練習は1時間です。隣りの野球部は長時間練習。(桐蔭学園出身で元読売ジャイアンツの)高橋由伸君は、練習の短いサッカー部が羨ましかったそうです(笑)。しかし、時間内でぼくの与えた課題ができない選手たちは居残って練習していましたね。

サッカーというスポーツは個とグループの2つの視点が大切です。まずそれぞれの選手の個の技術とサッカー観を揃える。次にグループでやってみて、滑らかに動かなければ、個のトレーニングに戻ればいいんです。