“経費”における不公平さ

男性中心のイデオロギーが見られるのは職場だけではなく、就労規定に関する法律にも織り込まれている。たとえば、どんなものを仕事の経費として認めるかだ。この問題は、おそらくあなたが思っているほど客観的でもジェンダー・ニュートラルでもない。会社が従業員に対して経費精算を認める範囲は、一般的にその国の政府がなにを経費として認めるかに準じている。そして一般的に、それは男性にとって必要なものである場合が多い。制服やツールは経費として認められるが、緊急時の保育費用は認められない。

アメリカの場合、なにが正当な経費として認められるかは、内国歳入庁(IRS)によって決定される。「一般的に個人的費用や生活費や家計費は、経費として認められない」。しかし、どんなものが個人的費用に相当するかは、議論の余地がある。そこで、ドーン・ボヴァッソの出番だ。ボヴァッソは、アメリカの広告業界ではめずらしい女性クリエイティブ・ディレクターで、シングルマザーでもある。

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何が正当な経費なのか

会社からディレクターズ・ディナーへの招待状を受け取ったとき、ボヴァッソは決断を迫られた。200ドルのベビーシッター代を払ってまで、わざわざこのディナーに出席する価値があるだろうか? ボヴァッソの男性の同僚たちは、そんな計算に頭を使う必要もない。もちろん、シングルファーザーも存在するが、数は非常に少ない。イギリスではひとり親の90%は女性で、アメリカでは80%だ。ボヴァッソの同僚の男性たちは、ただスケジュールを確認して出席か欠席かの返事をすればよく、ほとんどの場合は出席した。それどころか、彼らは会場のレストラン付近のホテルを予約して、飲み直すのだ。彼女が支払うベビーシッター代とはちがって、こうした飲み代は会社の経費で落とすことができる。

ここに不公平さが潜んでいるのは明白だ。会社の経費規程は、従業員の家庭には専業主婦の妻がいて、家事と子どもの世話をするのを前提としている。それは女性の仕事だから、会社が支払う必要はない。

ボヴァッソは、つまりこういうことだと言っている。

「遅くまで残業したら(奥さんが留守で、料理をつくってもらえないから)テイクアウトのために30ドルもらえる。したたかに酔っ払いたい気分なら、30ドルでスコッチを飲んでもいい。だが、ベビーシッターを雇うために30ドルはもらえない(奥さんが家にいて、子どもの面倒を見ているんだから)」

結局、先ほどのディナーの件では、ボヴァッソはベビーシッター代を会社に負担してもらうことができた。だが彼女が指摘しているとおり、「あくまでも例外であり、こちらから要求しなければならなかった」。

女性はいつもそうだ。つねに例外であり、デフォルトになることはない。