創業後4年でウォール街史上最大級のIPO
1976年春の時点で、ジェネンテックにはラボもオフィスもなかったし、フルタイムで働く科学者もいなかった。スワンソン、ボイヤー(非正規のパートタイム)、それに2人が掲げる理想――これが同社のすべてだった。それからたったの4年で、ジェネンテックはウォール街史上で最大級の新規株式公開(IPO)を実現する。
ジェネンテックは文字通りブレークスルーを起こした。第一に、バクテリアに外来遺伝子を導入することでヒトのタンパク質を世界に先駆けて合成した。第二に、遺伝子工学による新薬開発に世界で初めて成功した。第三に、バイオテクノロジー企業によるIPO第一号になった。
製薬業界に新たな潮流も吹き込んでいる。科学者は研究成果を学会誌に発表する自由を与えられ、製薬メーカーは社内で生まれた発明を企業秘密にしない――これが業界標準になったのだ。現在、生物学分野で発表される著名な研究論文を見ると、著者の多くは民間企業で雇われている科学者である。
過去40年を振り返ると、ジェネンテックはヒトインスリン以外でも画期的業績を残している。代表例はヒト成長ホルモン、がん治療薬「アバスチン(ベバシズマブ)」「ハーセプチン(トラスツズマブ)」、抗インフルエンザ薬「タミフル(オセルタミビル)」などだ。
2009年、製薬大手ロッシュは468億ドルでジェネンテックを完全買収した。1980年のIPOの際、ジェネンテックは1株35ドルで株式市場にデビューしている。ロッシュによる買収が完了した時点では、それが一株4560ドルになっていた。