奨学金に返済の義務はなく、使いみちも自由

現在でも、日本で学ぶ留学生のための奨学金、なかでも日本語学校の学生向けとなると、その数はぐっと少なくなる。日本学生支援機構の調査では、2019年時点の外国人留学生の数は31万2214人。そのうち日本語学校への留学生は8万3811人と、全体の27%を占める。

それに対し、同機関が公開する「日本留学奨学金パンフレット2020-2021」によると、地方自治体・関連国際交流団体・民間団体が支給する留学生向け奨学金125件のうち、日本語学校の学生にも門戸が開かれているのはわずか8件(全体の6%)だ。日本で高度な技術や知識を習得するには、まず「日本語の習得」が必要だが、日本語学校の留学生には、その入口段階で経済面での壁が立ちはだかるのだ。

「六甲奨学基金」から支給される奨学金に返済の義務はなく、使いみちも自由。支給される学生に対して、センターの国際交流イベントなどへの参加の義務も一切ない。加えて、支給対象を大学や短大、高専だけでなく、専門学校や日本語学校の学生も対象とする点に大きな特徴がある。

「門戸は広くする。そして、奨学金を支給する立場であっても、学生を拘束してはいけないというのが、センターを運営する仲間たちの総意でした」

毎年1月に、兵庫県下の学校に募集案内を送り、各校1人を推薦してもらう。1000人以上の留学生を擁する神戸大学でも、少人数の日本語学校でも、推薦枠は1人。そこから抽選で5人に絞るという選考スタイルだ。

「奨学金の構想としては、毎月5万円を1年間、5人に支給する。つまり年間300万円が必要になります。基金は1300万円あるので、毎年そこから100万円を取り崩し、もう200万円を寄付で集めて、13年続けようという目論見でした」

ところが、震災直後にはあれほど集まった寄付金が、奨学金となるとなかなか集まらない。1300万円あった基金はみるみる目減りしていき、13年どころか4、5年で終わってしまいそうになった。

とりあえずやってみたのが「古本市」

そこで思いついたのが「古本市」だ。

お金ではなく、家や職場で不要になった本を寄付してもらって、その売り上げを奨学金に充てる。センターのロビーで開催すれば、場所代だってかからない。趣旨に賛同した人たちから古本がセンターに持ち込まれ、初年度(1998年)は80万円を売り上げた。素人が手探りで始めたにしては上出来だった。

古本市の価格設定はシンプルだ。文庫本や新書は一律100円、それ以外の単行本は一律300円。どんなに値段が高い学術書でも、絶版となり市場から消えた稀少本でも、均一価格である。そのためか、初日には阪神間の古本店やコレクターたちが、開店前から行列をつくる。

撮影=水野さちえ
シンプルな会計システム

「初日はすごいですよ。プロがバーコードリーダーのような道具を持ってきて、瞬時に市場価値を見極める。絶版の岩波新書だけを、箱いっぱい買っていく人もいる。さすがやね」

と、飛田さんはあっけらかんと話す。とりあえず一律の価格設定にしてみて、やりながら考えようとしたところ、そのまま定着したという。一時、希少本だけでも価格を変えようとしたこともあったが、持ち込まれる古本が多すぎて対応しきれなかったそうだ。