電車は1両あたり1億数千万円にも達するため、車両の置き換えには数十億から数百億円が必要になる。ホームドア設置と車両更新のタイミングが合えばよいが、なかなかそうもいかず、ホームドア設置を急ぐために新型車両の投入を前倒しした路線もある。これは鉄道会社にとって少なからざる負担となる。
車両更新を前倒した事例が前述の日比谷線である。東京メトロは千代田線で1968年導入の6000系電車を約50年近く使用した例があり、東西線でも1988年に導入した05系を大規模改修して引き続き使用しているが、日比谷線は1988年に導入を開始した03系車両を約30年で廃車とした。
特急型車両を抱える西武や小田急の事情
現時点でホームドアの設置が進んでいる地下鉄各線、山手線、京浜東北線、東急線各線は、いずれも通勤型車両だけが走る路線であり、ドアピッチを含めて車両の規格を統一しやすかったという要因が大きい。
地下鉄では東京メトロ有楽町線、銀座線、千代田線で、都営新宿線、大江戸線で整備が完了した。半蔵門線、東西線、都営浅草線でも設置が進んでいる。東京メトロは2025年度、都営地下鉄は2023年度までに全駅でホームドアの設置を完了する計画だ。この他、札幌市営地下鉄、仙台市地下鉄、横浜市営地下鉄、福岡市地下鉄が全路線全駅にホームドアを設置完了している。
JR東日本は2008年に山手線へのホームドア導入を決定し、2010年には恵比寿駅、目黒駅に先行導入。その他の駅についても2012年度から順次導入が進められ、2020年末現在、新宿、渋谷を除く計28駅で設置が完了している。また2018年には、おおむね15年後(2032年度末頃)までに東京圏在来線の主要路線全駅にホームドアを整備する方針を示している。
私鉄では東急が2020年3月に、東横線・田園都市線・大井町線の全64駅でホームドアの設置を完了した。すでにホームドアを設置済みの目黒線、センサー付き固定ホーム柵を設置済みの池上線・東急多摩川線とあわせて、東急線全駅への整備を完了している。
逆に東武や西武、小田急など、ドアの枚数や位置が異なる特急型車両を運行する路線では、通勤型車両しか発着しないホームなど、限られた場所にしかホームドアを設置できていない。ドアピッチの問題は、私鉄によってホームドア整備率が大きく異なる要因のひとつである。