仕事から隔離して新人を徹底的に教育

若い頃、「師」と呼べるような人と出会ったことも、私にとっては貴重な勉強となりました。

リコーに入社以来、私は技術者として開発畑一筋でしたが、攻撃型の人間だったため、しばしば上司と激しくぶつかりました。仕事で衝突し、むっとしてしまうと、私はよく藤本栄さんという技師長の部屋に遊びにいったものです。入社6~7年目の頃です。

藤本さんは「天才」と呼ばれていた設計者で、「リコーフレックス」という二眼レフをつくった人です。私は9人兄弟の8番目で父親との年齢差が大きかったのですが、藤本さんはちょうど父親と同じ年齢。研究室に遊びにいくとお茶を出してくれました。

「アホ」「バカ」「やってられない」……。私がいつものように上司のことを愚痴っていると、あるとき藤本さんにこう言われました。

「近藤さん、他人に何をされたかを数える人生は寂しいよ。人に何をしてあげられるかと考えないと、いい人生は送れないよ」

これは、かなり衝撃的な言葉でした。そのような生き方をすぐに実践できたわけではありませんが、そういう思いを持たないと駄目だなと考えるようになりましたし、言葉の重みは年を取るほどに徐々に増してきています。藤本さんには人生の生き方を教えられました。

もう1人、技術的なことを学んだのは鈴木茂技師長(故人)です。2年間ぐらい一緒に仕事をしただけですが、複写機というものがどういうものかイチから教えられました。職場の2人の先輩との出会いに私は大きな影響を受けました。私の場合、調理された料理ではなく、目の前にいる生身の人間から多くの大切なことを学んできたと言えそうです。