介護が始まったら、諸経費を記録するべし

妻がお金について無欲な人間だったから、我が家は相続で揉めることがなかった。だがすべての家庭で、きれいに話がまとまるわけではない。揉めに揉めて、タイムリミットの10カ月以内に書類がまとまらない可能性もある。家庭裁判所で法廷闘争にもちこまれたら、地獄の中のさらに地獄だ。

介護施設に支払った費用、自宅介護にかかった諸経費などは、相続のときに精算が可能だ。だから、親の介護を始めた人は、あとあと揉めないように諸経費を家計簿なり会計ソフトなりできっちりつけておいたほうがよい。

写真=iStock.com/akiyoko
※写真はイメージです

我が家の場合、布団、リネン(シーツや枕カバーといった消耗品)、杖、大人用オムツなどへの出費を、普段の買い物と全部ゴチャゴチャにしてしまっていた。だから領収書も何も残っていなかった。介護のための経費がいくらかかったのか、まったくわからないのだ。

出勤簿やタイムカードをつけているわけでもないので、介護のためにどれだけ働いたかもわからない。日記帳やメモといった証拠すらなければ、いざ親族との話し合いで揉めたときに水掛け論になる。親の介護を始めた段階からきちんと記録をつけておかなければ、皆さんが投入した人件費と経費は「全損」になってしまうのだ。

我が家では、晩年の短い期間を除いて父と同居していた。厳密に言えば、父だって電気代やガス代、水道代を使い、食事だって私たちと一緒に食べている。それらの諸経費も「1カ月×万円」とざっくり決めて親から徴収しておくなり、あとでまとめて実費を徴収しておくなりすれば良かったのだ。

相続税をキャッシュで払えない人に待つ「サラ金並みの利息」

10カ月間にわたる「相続地獄」を経て、とうとうすべての書類が整い、税務署に相続税の申告をする日がやってきた。長く暗いトンネルの中を歩むような地獄の日々でもあったし、あっという間の10カ月間でもあった。

申告を済ませた結果、父の残した全遺産は基礎控除7000万円(2011年当時)を上回って課税対象となった。相続税を期日までに支払わないと、期日から2カ月までは年利7.3%、期日から2カ月以降は年利14.6%の利息がかかる。サラ金並みの恐ろしい利息だ。

我が家の場合、高田馬場のマンションはだいぶ古かったため、千数百万円の評価額にしかならなかった。これは幸いなことだった。「サラリーマン大家になる」と山っ気を出し、アパートを1棟もって家賃収入を得ていたとか、とんでもない金額のタワーマンションをもっているとなると話は違う。ポルシェやメルセデス・ベンツなど高級車のコレクターだと、それらも全部資産に計上される。